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悪鬼異行 異界復讐譚  作者: ジベタリアン
プロローグ ゼラス
13/56

アンダーシティ

地下の街

魚人の槍を手に歩き始める。


手がそのまま剣になるなら武器なんて要らないかなー、とも思ったが、素手よりも武器の方がリーチが長く遠心力も乗せられる。

実際、武器無しでも戦えるのは全て左目のおかげだ。もし左目が無ければ手がどれだけ硬く鋭くなろうとも、敵に近付く選択はできない。それだけリーチの有無というのは戦闘において重要なものだ。特にダンジョン内は天井が高く、幅も広いのでリーチは長ければ長いほどいい。

取り回しづらい程に長くなるとそれはそれで問題だが、今の筋力ならば多少長すぎようと全く問題にならないだろう。

それに、硬質化したネキアの肉は明らかに重量が増すので、武器の重みに振り回されるということもそうそうない。質量保存の法則的に重量が増えるのは甚だ不思議だ。


そんなわけで、武器は積極的に拾っていくことにしている。

というか、積極的に奪いに行く始末である。


「いた!」


ふふふ、大声をあげてしまった。

カエルに乗った魚人だ。初めて見たから興奮してしまう。


投擲した槍が背中を見せて逃げる巨大なカエルの大腿に突き刺さる。

カエルが体勢を崩し、その上に乗っていた魚人が落ちる。


猛ダッシュで近付いた私に対し、顔を挙げて何とか防ごうとした魚人を力任せに岩を削っただけの無粋なこん棒で掬い上げるように魚人の頭を抉り飛ばし、振り上げたこん棒をカエルの頭頂に叩き下ろした。


はは、素晴らしい身体能力だ。一対一の戦闘なら力任せに武器を振り回すだけで勝ててしまう。


死んだ魚人が振るう間もなく握っていた長剣をゲット。鎧まである。

カエルにはしっかりとあぶみまで着いていた。

どれも、質がいい。

剣なんて石じゃなくて金属製だった。

魔族にも一種の社会体制があって、こいつはその中でも地位が上の方なのかもしれない。よく見れば、頭の大きさとかも少し人間に近い。


消えずに残る魚人から鎧を剥ぎ取る。


魚人には二種類いるようで、一つは今始末したおよそ人に近い身長と体型をもつ中型、もう一つはやたらとでかく太っていて槌を使う大型だ。

これまでの観察によるとどうやらこの二つは別の種族で大型は頭が悪く、中型がリーダーとして指揮し、饅頭大蟹を連れてダンジョンを回っているようだ。

そして、大型は鎧を着ていることが多いが、今のところ中型は鎧を着た個体はいなかった。

なので、今回は鎧が手に入って嬉しい。


ちなみに、消えずにいる魚人も初めてだ。

……お腹はまだ減ってないけど食べてみようかな。


(……我は流石に人型のは食べたくないの)


……そうか?

とりあえず味見はしてみるけど。


ズパッと腕を切り落とし、持ち上げる。

鼻を近付けると、生臭いにおいがした。

うーむ、これはアウトかもしれないな。


(じゃあ、やめといた方が……)


けど、味は美味しいかもしれない。納豆も美味しいしな。タイで食べたドリアンだって美味しかった……臭いがもう少し弱ければはお良かったが。

肩部分から鱗のある皮をバナナのように剥ぐ。筋肉の着き方は人間とそう変わらないな。


(……うぇー)


物は試しとガブッと噛みつく。不思議と血はほとんどない。

味は鶏肉と魚の中間のようで、食感は柔らかく噛みきりやすい。

が、そのままじゃいささか臭みが強くておすすめできないな。


残念だったね、シアン。


残すのも悪いしせめて腕だけでも食べようと思い、皮を更に剥いでいく。




白い鎧を纏った三人が周囲を警戒しつつ歩いている。

男が二人、女が一人。男の片方は背が高い。


先頭にいた女が掌を後ろに向ける。止まれの合図だ。


「前方に何かいます」


若い女の声がダンジョンに響く。


「見えないな」


背の高い方だ。


「敵か?」


こちらは低い方。


「体格は人間と変わりません。足元に……人型の死体があります」

「少し近付くぞ」


低い方が指示する。


「「はい」」


三人が姿勢を低くして人影に近付く。


「確かにいる。何かしているぞ」

「死体の腕を持っているようです。何を……」

「分隊長、あれはハイ・サハギンの鎧です」


背の高い方が押し殺したような声で告げる。


「そして、奴は死体を食っている」


ハイ・サハギンの鎧を着て、ダンジョン内で死体を食らう。

答えは出た。


「エリオット分隊長」


背の高い方が許可を求める。


「行け、ライシン」


その声と同時にライシンと呼ばれた男が全身を豹のようにしなやかに動かして飛び込んでいく。





「貴様ああああああああ!!!!」


魚人の上腕の裏、三頭筋にあたる部分に歯を当てたところ、前方から怒声をあげて凄まじい速さで銀閃が迫ってきた。


「えっ!?」


咄嗟に魚人の腕を離し、跳びすさる。


くっ、全眼では追いきれない程のスピード、怒声が無かったら左腕を切られていたかもしれない。くっつけたら治るけど。


襲撃者は白い鎧を着た背の高い男だ。鎧からは制服のような印象を受けた。

武器は……片刃で反りのある細身の剣……刀?


腰から今しがた強奪した長剣を引き抜く。長剣は片手用らしく、両手で握るには少し柄が短い。

相手が人間だとしても、襲ってくるなら戦うしかあるまい。


襲撃者が一瞬刀を引き、後ろ足で地を蹴りたったの一歩で5mはあった間合いをゼロにすると共に降り下ろす。

一応形としては剣道の「面」に近いが、地球ではあり得ないような身体能力。

それを何とか長剣で受け流す。

更に連続で刀が振られる。明らかに修練が滲み出た動きをする上に、人を斬り慣れた故の迷いのなさ。


昔、部活動で剣道を習っていたが、この長剣は柄が短くてとても同じ動きを出来ない。そして、剣道をやっていたからこそ分かるが相手の男は錬度の格が違う。剣道三段の腕前ではいくら攻撃が見えていても剣を離さないようにしているので精一杯だった。


足元を狙った薙ぎをジャンプしてかわす。

そこで、男がにやりと笑った。

選択を間違ったかもしれない。が、空中ではもう後の祭りだ。


悪あがきがてら横に振った剣を、体を少し傾けるだけでかわされ、逃げ場のない空中で胴体に刀が迫る。


「もらったあああ!!!」

「がああああっ!!」


何とかしようとした結果変な声が出た。


しかし、かくして刀は胴体を両断しはしなかった。

踏ん張ることもできず弾丸のように壁に突っ込む。

硬化して何とか刀を食い止めた左腕も半ばまで切れていた。


「まだ生きているか、しぶとい!」


立つこともできないに刀が迫る。

ギギギッ、と脳裏で狂気の扉が――。


「待て、ライシン!そこまでだ!!」


同じ鎧を着た男が一瞬にして間に入り、刀持ちと私に短めの剣を向けた。


「よく見ろ、ライシン。これは人間だ」

「何を馬鹿な!ダンジョンで魔物の鎧を着て死体を食う人間が……」


ライシンと呼ばれた男が私の顔をじーっと見る。目を細め眼を点にして。


「……人間が……?」


疑問系になった。後一押しだな。


「あ、えーっと、人間です……」


堂々と「人間だ!」とまでは言えなかった。

ダンジョンで魔物を食うのはおかしかったのか……。


(共食いも同然って言ったじゃろ?)


ぬ、シアンも食べたじゃないか。


(我は人間ではないからな!)


ずるい!


「なんと、いや、まさか人間だったか。……その、すまなかったな」


ライシンと呼ばれた男が刀を戻し、頭を下げる。


「いえいえ、大丈夫でぃす」


埃を払い立ち上がる。めっちゃ強かったな、この人。魔人瞬殺できそう。


「私からも謝っておきます、申し訳ない」


後から来た双剣の男も頭を下げた。


「ほんと、大丈ぅ夫ですので」


それよりも人に会えたのが嬉しい。このままついていっても大丈夫かな。


「それより……」

「あら?人間でしたの」


そこに、とことこと女の子が歩いてきた。同じく同型の白い鎧を着ている。


「けど、死体を食べていたはずじゃ……」

「あっと、私の名前はエリオットだ。ミズガルズに所属している」


慌てたように女の子のセリフを遮って背の低い方、エリオットが自己紹介した。


「ご丁寧にどうも。ケントです」

「私はエルザ、エリオットお兄様の妹ですわ」


エルザが堂に入った礼をする。


「ごめんなさい、私もサハギンと勘違いしてしまいまして」

「ああ、それはもう大丈夫ですので、ほんと」


どうやらダンジョンで魔物を食うのは常識じゃないようだ。これからはできるだけやめておくことにしよう。

そして、サハギンというのは魚人のことだろうか。


最後にライシンが自己紹介した。


「ライシンだ。極東リーベルンゲンの出身で、今はエリオット分隊長の部下としてミズガルズに所属している。ところで顔と名前、その剣技からしてお前も極東の者ではないか?」

「あ、はい」


とは言ってみたが、鉄板極東トークとかされたら極東出身じゃないのがバレる。


「そうかそうか、同郷だな。極東のどこなんだ?」


ライシンが嬉しそうな笑顔で喋りかけてくる。同郷に会って嬉しいんだろう。似非極東の身としては心が痛い。

それに極東のどことか何一つ知らない。


「極東のシャコウ省の山中じゃ」


笑顔のまま固まっていた私を助けてくれたのは、後ろからひょっこりと顔を出したシアンだった。


「我はシアン、この者の妹じゃ」

「え、今どこから……?」


エルザが呟く。

確かに最もな疑問だ。なんて誤魔化そう。えっと。


「何を言っておる。我はずっとここにいたぞ、なあお主」


強引だ。誤魔化すなんてレベルじゃない。


「あ、はい。ずっといましたね」


「そんな……、まあいいですわ。けど、お二人はどうしてこんなところに?ここ18階はそんな子供を連れて入れる深度ではないと思うのですが」


エルザが疑わしそうな表情をし始めていたが、これでやっと言いたいことが言える。

そこで私は、一階にいたらジョシュアと一緒に穴に落ちたこと。

そして、あれよあれよという間にここに落ちてきてジョシュアがいなくなって一人で帰れなくなったことを告げた。


「というわけで、ついて行ーてもよいですか?」

「ええ、それならば丁度いい。我々もアンダーシティに戻る途中だったんです」


エリオットから快諾を得てやっと上を目指せることになった。





道中、ライシンにシャコウ省の山奥なんて大変だったろうと言われて曖昧に頷き返したり、シアンに疲れたと駄々をこねられて背負うことになったり、エリオットに地図なしでダンジョンに入るなんて無謀だなんて言われたり、エルザにダンジョンで魔物はギリいいとしても亜人を食べるのはあり得ないとか言われたりしながらも、何とか目的地、アンダーシティにたどり着いた。


アンダーシティはダンジョン内で最大の巨大地下街である。

その大きさは面積にして6平方km、中心部の高さは14階、15階、16階をぶち抜き300mに達し、人口は6万人を超える。

中心部にはセブンスと呼ばれる16階の地面から14階の天井までを貫く七つの塔が建ち、これらを中心に大小の塔により街が広がっている。地下にあるとは思えない規模の巨大都市である。


他にも、10階のユグソールリゾート、20階のソルトレイクタウン、23階のヒノワ温泉街、30階最果てのアーバニティエンズと、ダンジョン街は色々とあるが、いずれもアンダーシティの半分にも満たない規模だ。このことからも如何にアンダーシティが賑やかか分かるだろう。


この巨大都市の発祥は不明であるが、一説によると遥か昔、冒険者ギルドが魔石売買の独占を始めた際に、それに反発した商人達がダンジョン内で私的な魔石売買を始め、冒険者ギルドもダンジョン内ならばと黙認したことに端を発するらしい。

その頃の冒険者ギルドもアンダーシティがこれだけの規模の街になるとは思ってもみなかっただろう。しかし、今さら黙認をやめるわけにもいかず、ギルドのアンダーシティ支部ができてからもずるずると黙認状態が続いている。


「ってなわけで、お兄さん、ここじゃあ魔石の売買だってしてるんでさあ。まあ、ドミニオンよりレートは低いですが、そこはアタシらもおまんまの食い上げになっちまうんで、ご愛敬ってことでお願いしまさあ」

「はあ、なるほど。よくわかりました。じゃあ、少ないですがこれだけ交換していただけますか?」

「あひゃあ、なかなか多いですなあ。ちょっと待っててくだせえ」


ちょっと待つ。


「へい、計算終わりました。

低質 1.1kg 1万6500エリス

中質 3.7kg 16万6500エリス

高質 0.3kg 4万500エリス

計 22万3500エリス

になりやす。どうぞ」


「ほう、なかなかになったな」

「へへ、兄さん何日潜ったんだい?結構なもんじゃないですかい」

「まあちょっとね。面白い話もありがとう」

「じゃ、今後ともよろしくおねげぇします」


魔石交換所を離れて上を見上げる。

300mを超える、と言っていたか。

目の前に広がるのは数えきれないほどの摩天楼と、それらをきらびやかに着飾るネオンのような魔光、それから時々吹き上がる蒸気の白い広がりだ。

だが、外の文化水準を見る限り、この高さの高層ビルを建てるのは難しいだろう。故にこの摩天楼は人工物ではないと推察した。

その正体は、ビルよりもなお太い極太の石柱である。外側は非常に硬く魔法的な処置をしないとまず確実に壊れないが、内側は空洞が多く掘り進めやすい。それが幾柱も建ち、互いに枝を伸ばしながら上に下に支え合い、天井に達している。更にそれを補強するように15階、14階の地盤が柱を掴み倒壊を許さない。


石柱コラム内の昇降移動には階段か蒸気式エレベーターが使われている。70階もあるコラムを階段で登るのは大変だ。

コラム間の水平移動には、枝の中を歩いて渡る方法と、ロープウェイで滑り降りる方法がある。

枝よりロープウェイの方が多いが、枝は直接コラム内に入れるのに対し、ロープウェイはコラムの外側にしかたどり着けない。コラムの外側ウォールにも様々な屋台があり、合法、非合法を問わず、金さえあれば何でも揃うらしい。

一方、コラムの内側インテリオルにはブランド品、高級品や職人の業物が売られてあり、洗練された商店が並んでいる。その傾向は上に行くほど顕著になり、逆に下の方には売れない職人や駆け出しの職人が商品を格安で販売する底部バザールがある。


私はエリオット達と別れた後、このバザールのすぐ外にある怪しさ満点の魔石交換所で金銭を手に入れ、ダンジョンマップを摂取インジェストすることにした。エリオットが言った通り、地図なしでダンジョンを歩くのは無謀なようだ。一人ではとてもアンダーシティまではたどり着けず、人を探し求めて数日はダンジョンを歩き回ることになっていただろう。


そこかしこのウォールでもオーブは売ってあるが、エリオットによるとウォールのオーブはパチモノだったり、霊脳に悪影響があったり、ウィルスが仕込まれていたり、ただの水晶だったりもするらしい。そこでエリオットに教えてもらったのがセブンスの第四柱にある、オーブ専門店『ブレインウォッシュ』だ。不穏な店名だが、そこのオーブは質がいいらしい。


それで、どうやって行くんだろう。まずここはどこだ。


「おい、そこのにいちゃん、道に迷ってんのかい?どこだい、連れてってやろうか?」


後ろから声を掛けられた。とても若い声だ。そんなに道に迷ってそうな素振りしてたかな。

後ろにいたのはシアンより少し若いくらいの男の子だ。背中にリュックを背負っている他は、ずいぶんとみすぼらしい格好をしていた。エルザに言われてハイ・サハギンの鎧を外した私も負けちゃいない汚れっぷりだが。


「なんじゃ、貴様?」


肯定しようとしたら、その前にシアンが口を挟んだ。


「む、お前こそなんだよ。俺はにいちゃんとコーショーしてるんだ」

「ふん、コイツと交渉したくばまずは我に話を通すのが筋なのじゃ」


いつから私のマネージャーに就職したのかな、シアンは。

男の子の言う交渉ってのは、つまり案内料が欲しいのかな。


「では、我が聞いてやろう。何用じゃ?」

「はっ、何だよお前。我だって、変な喋り方ー」

「ムカ!我のアイデンティティーに何という言い種じゃ!貴様の話など聞いてやらん!行くぞケントよ!」


へえ、我ってのはやっぱり変な喋り方だったのか。誰も突っ込まないから、ゼラスじゃわりとよくあることなのかと思っていた。みんな大人だっただけなのか。

こういうのって大人になってから思い出すと結構恥ずかしいんだよな……。


けれど、アイデンティティーなら仕方ないな。確かにシアンに残った神様要素ってもうそれだけだもの。


ってか、丁度いいんだから勝手に決めちゃわないでくれ。


「いやいや、待ちなさいシアン。少年、第四柱の『ブレインウォッシュ』に行きたいんだが、連れていってくれるかい?」


(む、お主我に逆らう気か?)


後で服とか見に行こう。


(ならば許す!)


「『ブレインウォッシュ』か、にいちゃんいい店知ってるな!こっから第四柱までなら1500エリスってところだな。前金は500でいいぜ」


少年が手を差し出す。まずは前金を寄越せということだ。

私は少年の目を見つめた。挑戦的なほど真っ直ぐにこっちを向いている。


「ん、何だよ、文句あんのかよ」


1500エリスは多分吹っ掛けているな。精々300エリスくらいのものだろう。

だが……子供だ。私は慈善家でもなかったが、金の使い道をあまり知らない人間としては子供に恵んでやるのはなかなかいい使い道と思えた。


「いいだろう、契約成立だ」

「よし、話が早くていいや!オイラの名前はリャン、着いてきな!」


少年がこっちだよ、と手を揺らしながら歩き始めた。


近くのコラムに入り、20エリス支払ってエレベーターを起動させる。

最上階の30階まで上がり、壁に開いた穴を覗く。

そこにはロープが数本隣のコラムにまで繋がっていた。


「にいちゃん、ロープウェイ使ったことある?」


ない、と答える。


「おっけ!じゃあやり方教えるね。まずはこれ貸したげる。200エリス」


有料で貸されたのは、滑車にわっかにした縄をつけた妙な物体だった。


「まずはロープに滑車を乗せてロックするでしょ。で、この命綱のフックを腰にかけて、ペダルに足を置くでしょ。で、こっちのロープがブレーキでしょ。それで後はロックを外す――――」


「だけ」、という言葉を残して遠ざかる少年。


まあ、何となくわかった。つまり、公園にあったターザンロープに取り外し機能とかブレーキとかを付け加えたようなものらしい。


言われた通り滑車をロープに乗せて準備する。準備ができたらシアンが万歳の格好をする。それを小脇に抱えて滑り降りていった。滑車が回り始めると前方を照らし出すライトに灯りが点いた。


猛烈な勢いで暗いダンジョンの闇を切って進む。石炭のにおいのする黒煙混じりの風が強く吹き付け少しだけ恐怖をあおる。

周りに目を向けると闇の中に自分と同じように闇を行く光がいくつも見えた。魔光に照らされたコラムから遠ざかり、闇の中に漂うからこそ、こんな小さな光が見えるのだろう。


(これはなかなか面白いな!)


脇に抱えられたシアンが目をキラキラさせている。

……ああ、面白いな。


思わずケントの口元はほころんだ。


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