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HIT✖GIRLに花束を

作者: 水鳥潤

誤字脱字などあると思いますが、よろしくお願いします。


編注)文章が余りに酷かったので少し改変しました。





 ―――高校2年の5月某日、俺は美少女と運命的な出会いをした。



 「大声は出さないように。死にたくないのなら、大人しく私に協力してくれ」



 マジでやばい。胸キュンどころか胸に風穴が空くかもしれない。狂気に満ちた美少女に拳銃を突き付けられ、今にも弾丸で胸を撃ち抜かれる寸前です。


 もちろん俺に非はない。単に面倒事に巻き込まれただけだ。休日に珍しく外に出たのが運の尽きって、そりゃないぜ神様。

 たしかに小遣いをせがむ目論見で、母へのプレゼントを買おうとしてたけどさ。天罰を下されるには割が合わないと思うぞ?



 (おお神よ……)


 神に問いかけようと空を見上げるも、それは不可能であった。

 なんたってここは建物内だからな。道を歩いていていると急に意識を失い、目覚めてみればこの有様。


 ——つまり目の前で拳銃を突き付ける少女に拉致されたわけだ。


 廃れたビルでは張り詰めた空気が漂っており、俺達以外の気配は感じられない。血はまだ流れていないし、側にいる美少女は一応美少女してる。なので多少はマシな状況ではあるけどな。



 「あの、何でこんな事をしてるんですか? 差支えなければ理由を聞いてもいいですか?」


 記憶を失う前の事を思い返すほど、長い間ができていた。ついついこちらから話しかけてしまったぜ。


 「……ああ、そうだな。こんな仕打ちをされた君は、さぞ私が変な女に見えているだろうな」



 下手に出たのが功を奏したのか、彼女は納得の表情を浮かべてみせた。拳銃を握りしめながらではあるが、事情を説明してくれる様子だ。



 「こう見えて私は裏組織に所属していてな。先日とある任務でしくじってしまったのだよ。それは一般常識の欠如が原因だと、後日ボスからはきつく叱られた。その処分としてしばらくの間、私は一般社会に溶け込むようにと命じられたわけだ」



 ……OK、この説明だけでは拉致された経緯が伝わらない事が分かった。

 裏の組織に所属しているなんて情報も、ただの裏付けにしかならなかった。彼女が一般人でない事なんて、ひと目見た時から分かっていたさ。


 肩のラインに揃えられた黒く艶のある髪。胸の膨らみは厚手のパーカーの上からでも確認できるほどで、足やお尻のラインの様式美も、細身のジーンズからヒシヒシと伝わってくる。

 目鼻立ちは整っており、肌も白くきめ細やかで綺麗だ。美少女にカテゴリされるに相応しい容姿を十分に兼ね揃えておられる。



 ——だけど、頬に傷があるのだ。


 昨日今日についた軟なもんじゃない。狼のかぎ爪でえぐられた後のような、深く大きい古傷。まず間違いなく一生消える事はないだろう。


 裏の世界で生きる者の証として、傷は彼女の頬に刻印されている。可哀想に、酷い事する奴が世の中にはいたものだ。


 そして、何といっても彼女の手に持つ拳銃。これって一般人が容易に持てる物じゃないよね? 

 以上の点で、彼女が危ない人間である事は容易に想像ついていた。


 だがその他の事はさっぱりわからなかった。彼女を一般社会に溶け込まそうとするボスの意図も、俺を拉致拘束する意味もだ。



 「それで俺を拘束したと? なぜですか?」


 後者については特に重要なので尋ねてみた。


 彼女はふっと一息ついて、重い口を開けた。



 「私には悩みを相談できる人間がいないんだよ。これまで誰とも慣れあわず、一匹狼を貫いて生きてきたからな。そのツケが今になって返ってきたわけだ」



 この言葉を受け、大まかな経緯を理解することができた。



 1.ボスとやらは彼女を一般社会に溶け込ませる事で、彼女のコミュニケーション能力の向上を目論んでいる。

 2.しかし彼女自身は現状をどう打破すればいいのかわからない。

 3.頼る人もいないので、適当に相談相手を見繕ってみた。(拉致して❤)


 目測が妄想の域を脱していないが、あながち話の筋は間違ってないだろう。


 そうであるなら、これは俺にとっても‘かなり美味しい話’となる。

 だって今の状況って、いかにも美少女との青春ラブコメが開始する前触れじゃん?



 「……それで、俺に何の協力をしろと?」


 俺は浮かれ気味に結論を迫った。

 鼻息が荒くなるのは仕方ない。だって美少女との賑やかしい日常が待っていると思うと、いてもたってもいられないのだ。多めに見てほしい。



 「ああ、そうなのだ……」


 相手が裏組織の人間なんだ。多少のドタバタは覚悟の上だ。気合を入れて耳を傾けていると、彼女は突然床に両手両膝を付けた。










 「恥をしのんで頼む! 恋愛相談に乗ってはもらえないだろうか?」





 「……はい?」





 おいまじかよ? これは予想外の展開だ。開いた口が塞がらない。




 【突如同居を求めてきた謎の転校生との甘い学園生活】そんな王道のラブコメ展開を所望していた。



 それなのに恋愛相談だ?



 つまり、もう他に好きな奴がいるのかよ?




 が っ か り だ よ ! !





 (あーー、早く家に帰ってゲームしてぇ。)



 自分に幸せが舞い込まないと知った途端、やる気を失ってしまった。極めてゲスイ手のひら返しである。俺は目の前にいる美少女の事がどうでもよくなった。



 でも、断ったらどうなる? 素直に解放してくれるのだろうか?抜け殻になった状態でも、ふと自己防衛反応が働く。



 彼女は裏社会の人間で拳銃を所持している。機嫌を損ねさせるのはよろしくない。頭まで下げさせたんだ。話くらい聞かないと失礼か?



 ……よし、適当に受け答えしてやろう。面倒ではあるが致し方ない。


 無事に解放される為にも、俺は彼女の恋愛相談を受ける事にした。




 「へー、そうでしたか。構いませんよ。簡潔で結構なんで、話を聞かせください」


 作り笑顔で業務的な応対をしていると、彼女は頭を上げて相談を持ち掛けてきた。

 以後、淡々とした会話のやり取りは続く……




 「ありがとう。えっと、実は昨日街で殿方に声をかけられたのだよ。君可愛いね、モデルさんかな? と。もちろん私は違うと答えた」


 「ああ、ナンパされたんですね」


 「おそらくな。世間話をしていると、おいしい話があると口説かれた。社会勉強の一環として、私は彼の後についていった」


 「ほうほう」


 「連れてかれたのは近くにある雑居ビルだった。その建物内の一室に連れ込まれると、中では彼の友人3人とビデオカメラや照明器具が待ち構えていた」



 おい。それって如何わしいビデオ出演の交渉じゃ……ナンパじゃなくね? 




 な ん ち ゅ う 恋 愛 相 談 を 持 ち 掛 け て ん だ ! !




 良心的な突っ込みが脳裏を過ったのだが、同時に別の感情が生まれた。


 その後の展開が気になる……ビデオが配信販売されるのなら是非とも購入したい。



 「ほうほう。それで?」


 この期におよんで野暮な指摘はしないさ。変態的紳士な俺はニヤケ顔で相打ちを打つ。



 「ベッドの上に誘導され、とりあえず服を脱ごうかと勧められた。なぜか? と問うと、お金あげるからと返された。あなたより持ち合わせがあるから必要ないと答えると……」



 ごくりと生唾を飲んで聞き耳を立てていると、美少女は恥じらい頬を赤く染めた。


 鈍感で世間知らずであっても、乙女心は所持していたようだ。手で自分の口を押さえつける姿がまた可愛い。超キュートだった。



 「……強引に肌を触られた。驚いた私は所持していた銃を乱射した。威嚇射撃に臆した彼らは整列し、謝罪の言葉を述べてくれた。お引き取り下さいと、金まで用意されてしまったよ」



 ……お、おう、そうきたか。

 まぁこの結末には納得がいく。女の子をおとしめるゲスが現役のヒットマンに敵うまい。如何わしい動画を入手できないのは残念だが、彼女が汚されなくて良かったと素直に喜ぼうと思う。



 「良かったじゃないですか。危ない目に合わずに済んで。これからは気をつけて下さいね。表の世界にも悪い奴らは巨万としますから」


 話の内容にそぐわぬよう俺は彼女に軽く忠告した。

 すると彼女は浮かない顔を見せた。俺って何か失礼な事言ったかな?





 ―――しばらく様子を伺っていると、



 「実はな、部屋に連れ込まれた時、多少危ない目に合う覚悟はしていたんだよ。けれど私は彼らの行動を受け入れられなかった。……ダメだな私は。だから任務でもしくじってしまうんだ」



 彼女は愚痴のようなものを吐いた。



 「そんな、どうして彼らとの絡みがあなたの失敗に直結するんですか? 思い込み過ぎですよ」


 本当に意味も分からず彼女を励まそうとするも、一向に顔色を変える気配がなかった。




 「……関係あるさ。先日の任務では対象者を‘誘惑する’必要があったからな」



 この言葉で、ようやく俺は彼女の悩みの本筋に触れられた。




 「……それって、ハニートラップってやつですか?」



 「ああ、そうだ。女暗殺者にとって最大の武器になり得るスキルだ。かねてより身につけたいと思っているのだが、中々上手くいきそうにないのだ。ボスにも『男を魅了できる女になるまで帰って来るな』と言われてしまった。……なぁ、私はこれからどうすればいいのだろうか?」 

 


 ……なぁって聞かれましても。やっぱこれって、恋愛相談とは部類が違うよな? 一般人の、しかも男に結論を求めて来るなよ。


 あんたに問題があるとすれば、自分の脆さに労わってやれないところだ。見ず知らずの男を頼りにするところまで追い込まれているなんて。不器用過ぎる。

 馬鹿つーか、阿保の極みだな。常識がない点はどうやってもカバーしきれない。

 何不自由なく育った俺には、若くして裏社会に身を置く彼女の気持ちを理解できなかった。

 







 ——全く持って理解できなかったのだが、





 不器用で阿保な美少女の背中を押してやりたいとも思っていた。




 下心なんてゲスイ思考はない。純粋に背中を押したいと思った。



 この殺し屋の美少女の背中をさ……






 「少なくとも、今まで俺はあなたみたいな‘綺麗な人’に出会った事はありません」



 俺は気障な発言をして、右手を彼女の目の前に突き出した。


 食い入るように彼女は俺の右手に視線を向ける。



 「あなたはあなたらしくていいんですよ。無理に色仕掛けを身につける必要はありません。一匹狼? 超クールじゃないですか? それを貫き通せばいい。思い詰める必要もありませんよ。ボスも案外、あなたに休暇を与えたかっただけかもしれませんし。この際だ、表社会を満喫すればいい。そうするだけでも、世界が変わって見えてくるかもしれませんよ?」



 さらに気障な台詞を付け加え、俺は右手から1本の‘薔薇’を出した。



 これはちょっとした手品って奴だ。ネットで検索すれば上の方に出てくる、極めて簡単な難易度の技。

 手品ってのはスポーツみたく、生まれ持っての才能は必要ない。何一つ取り柄がなくても練習量でカバーできる。

 安価で簡単な技でもシチュエーションを整え、甘く優しい言葉を添えれば格好はつく。これだからマジックはやめられない。



 「すごい……綺麗な花だ……はは、ははは!」



 美少女からは好評頂いた。


 ……ってか初めて笑顔を見せてくれたな。


 それは大層可愛らしい笑顔だった。この瞬間がまさにシャッターチャンスだったのに、見とれてしまい携帯を取り出せなかったよ。



 「まぁ実際は安値の造花なんですけどね。また買いなおしますんで、よかったらどうぞ」


 「うん、ありがとう」



 彼女は最後にもう一度笑顔を見せてくれた。


 最っ高っに可愛いぜ☆ ナイス美少女!






 ―――これにて、俺と美少女との不思議な出会いの物語は幕を閉じる。


 迷いが晴れた彼女は俺を開放してくれた。 廃ビルの階段を降りながら、俺達は別れの言葉を交わす。



 「15年間生きてきたが、君みたいな者に出会ったのは初めてだよ」


 「そっすか……ってか年下だったんですね? 大人っぽい雰囲気からして、絶対年上のお姉さんだと思ってましたよ」


 「そんな事はないさ。私が大人であれば、こんな馬鹿な苦悩はしないさ。……ところで君の名前は? できれば今度、改めてお礼がしたいのだが?」


 「はは、たしかに。俺は柳瀬光希やなせこうきっす。お礼なんていいですよ。俺もその……色々と楽しめさせてもらえたので」


 「……そうか、それは残念だな」


 「すみません、お気遣い頂いて。……そうだ、俺にもあなたの名をお聞かせ願えますか? 淡い青春の1ページに刻むためにも」


 「何だそれは? ふふ、君も大概変わった奴だな? だが実名は伏せておきたいのだ。これでも裏組織に身を置いてるからな。こちらは聞いているのに、答えられなくて申し訳ない」


 「ああ、そうでしたね。仕方ないですよ」


 「……ああ。だがコードネームなら教えられる」



 そう言うと、彼女は手に持つ薔薇を顔に近づけた。

 


 「ローズ、この花と同じ名だ」




 ローズね……


 (今日の俺は色々と神ってね?)




 「……そっすか。最高に似合ってますよ」



 心地よい音色を堪能した後、ぐっと俺は親指を突きした。



 「今日は君に褒められてばかりだ。……なんだか照れるな」



 ローズちゃんは頬を赤く染めた。その色は俺達を照らす夕日の色にかなり近い。


 長くいた廃れた場所から一変し、視界は色鮮やかなものとなった。見慣れたはずの街角なのに、今の俺には絵画の中の世界のように幻想的に見えた。

 きっとモデルが良いからだろう。流石は美少女。絵になる。



 「では、私はこれで失礼するよ。またどこかで出会える日が来るのを楽しみにしている」


 「俺もです。……あ、でもあまり深くは関わりたくないかな。特に危ない目には遭いたくないです」


 「はは、それはそうだ。じゃあね……」


 「……はい」



 彼女は最後に笑みを浮かべ、俺とは全く関係のない道を歩いていった。


 俺は去りゆく美少女の背中に向けて、


 「アディオス」


 たいそう気障な台詞を呟いた。









 ――拝啓母上様へ。


 僕はあなたに捧げる予定のプレゼントのおかけで、美少女を笑顔にできました。


 短い間だったけど、今までの人生で一番充実した時間を過ごせた気がします。


 本当に、本当にありがとうございます。

 




 さてと、消費した花の代わりの品を買いに行くとするか。



 今度は造花でなく本物の……いや、花より団子か?



 よーし、苺大福でも買って帰るか!







    HIT✖GIRLに花束を~~FIN










最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。また別の作品を投稿する時があると思うので、次回も読んで頂けると光栄です。

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