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VS偽イーニアスとロープ男(前編)

 いつものことながら弥生は普段スカートというものを穿かず、本日も黒のヴィンテージの細身のジーンズに併せてヨーロッパの街並みがプリントされた白のTシャツを着、その袖を巻き上げ肩を出している。比べて滋のほうはブラウンの七分ほどのパンツに胸が白色、袖が若草色の半袖のパーカーを併せてと、こちらのほうがまだフェミニンである。服装で性格や性別を判断するのは滑稽であるにしても、敵の攻撃を弥生は回避して、滋は腕ごと縛り上げられ捕まっていれば、どちらが頼もしく、どちらが頼もしくないか、どちらが男で、どちらが女かわからなくなるものである。


 さて、銃を構える偽イーニアスを前にして撃ち合い覚悟で弥生も火球を作りだす。冷静に分析して五分五分の状況。急所に弾丸が当たる前に相手に火をつけられるか否かの勝負である。弾の速さはあちらが上、こちらは引火させれば勝機あり。ただ、滋が捕まっているのが難点である。木の上にもロープを使う敵一人。一対二なら不利とくる。逆に滋さえ解放できれば、その結界の能力でまず負けはない。


「オウ、オ姉サン、私トヤリ合ウツモリデスネ。ドチラノ能力ガ上カ勝負ネ!」


「あんたのは銃でしょ! ただの武器よ、武器!」


 相手も能力者とはいえ生身の人間。火をつけてしまえば焼死させてしまうこともある。法治国家に生まれ、生活し、活動し、一般の理性を持っていれば、相手を死なして良いなどという価値観は普段頭にない。桐生のように「あちら側」等で戦争の経験がない弥生には、これまで人を殺めた経験もない。彼女の扱う火力というものは、人を殺傷するに十分過ぎる能力だが、抑制に難しい分、生死のやりとりをしない戦闘をするには扱いにくい才能でもある。


「オウ、自分ノ分ノ悪サヲ、自分ノ能力ノセイニスルンジャアリマセン! ソレガアナタトイウモノデス! ソノ程度ダトイウコトデス!」


 腹立たしいことを言ながら偽イーニアスはまた発砲する。一発、二発と撃つが、距離がある為、一つも当たらない。どれも両手で構えて撃つ度に仰け反るところを見ると、それほど射撃が得意という訳でもない。上手くないくせして躊躇もなく銃を発射できる頭の構造に、弥生は腹立たしくなる。いくら外国人でもこの日本で勝手なことをさせるものかと頭に血が上ってしまうと、彼女だってもう容赦もない。生み出した火球を偽イーニアスに放つ。着弾の確認もせずに、間髪いれずに吊り上げられている滋の方へと走り出す。走りながら小さな火球を撃って彼を吊るすロープを切ってしまう。尻から芝へと落っこちた滋に、


「滋君、結界! あの偽者の銃を止めて!」


 ところが吊るす縄は切っても縛る縄は切れておらず、


「弥生さん、まだ手が使えない!」


 もがこうとすればするほど解きにくい。仕方なく彼の胴体目掛けてこれまた小さな火球を投げつけてやる。後は自分で何とかしろと目尻に掛け、次は枝の上のロープの男を睨む。相手も怯む。その隙に再び偽イーニアスへと振り返る。先ほど放った火球はどうやら敵の銃に当たった模様。銃を握る手から上腕へと引火して、その火を消そうと気が狂ったように腕を振り回し、手で叩いて、地面に擦り付けている。放つか脅しに使うか、また手に炎を生んで発射の構えを取る。と、そこを枝の上の男がロープを放って彼女の腕に巻きつけ、枝の上へと吊り上げようとする。抗って容易く引かれはしないが、その間に偽イーニアスも腕の火を消し終える。歯軋りしながら、また懐から写真を取り出すと、その一枚を火傷した腕に貼り付けた。


「オウ! 私モモウ容赦ハシマセン!」


 今度は腕の肘から指先までがバズーカ砲に変わる。まさかと思えばそのまさか。


「死ニナサイ!」


 との声と共に筒からロケット弾が発射された。目視出来た時には避けるに間に合わず、もはや駄目かと弥生は目を閉じた。すると自力で縄を解いた滋が間一髪の所で結界を張り、爆発の衝撃から守ってくれる。


「滋君、偉い!」


 こうなれば断然有利。腕に括りつけられたロープを両手で掴むと、すかさず縄を握りながら炎を生んで縄伝いに走らせ、枝の上の男の腕に引火させる。怯んだ隙に力を込めて引っ張れば、枝の上のロープ男が逆さまに落ちてきた。頭から落下した男はその場で気絶。見れば坊主頭のアジア系の二十代くらいの顔をしている。直に夏だというこの季節に全身タイツで身を包んで、リュックサックを背負っている。目立たないつもりであろうが、人目に晒されればこれほど怪しい格好もない。情けで腕に上った炎を踏み消してやる。



続きます

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