のほほんと危うい話(エピローグ)
羽田の空港までキャメロンを見送って、弥生と滋も桐生より一足先に新幹線で地元に帰る。その車中、
「メールアドレスを教えてくれって言われたけど、お互いに互いの言語がわからないのに…」と、滋は携帯電話を見つめながらつぶやいた。
「でもいいじゃない、英語の勉強ができて。向こうも同じような考えでしょ」と、弥生は言う。
「キャメロン君って、リックさんたちに協力しているんじゃなくて、彼らに守られているようなものなんですね。大学行くのにも常に誰かが見張っているって話だし」
「あの出鱈目発砲男やロープ男の国から攫ったんだから奪い返しにくると考えても当然でしょう。でも、いまじゃあの子の能力が強すぎて、簡単に拉致なんてできないみたいだけど。本人もアメリカから出るつもりはないみたいだし。それに、『あちら側』のユーア国の総督が水晶の設計資料も全て焼き捨ててしまって、当分の間、もしくはこれから永遠にあの雷兵器は作られないかもしれないって話なんだから、彼を奪い返す意味もほとんどないみたいよ」
「あの巨大な水晶って、シペルさんを改造した医者のお祖父さんが最初に作ったって言ってましたね。瀕死だったけど手当てが間に合って一命を取り留めたみたいだし、あの医者が実は祖父から手ほどきを受けていて、巨大水晶を作れる技術も持っていたりしないんだろうかと思ったりも…」
「その医者を巡ってまた争奪戦が起きるってこと? まあ、シペルさんが本当にあの国の議員なり要人になれたらちゃんと見張るだろうし、簡単に武器開発を許すとも思えないけど。それにあの医者本人もシペルさんを使って対抗兵器を作ろうとしていたくらいだし、大量破壊兵器の製造に加担するような人だとも私は思えないけどね。滋君、あんたやっぱり今回で随分と心配性になったんじゃない?」
「そうですか? 扱うものが危険な兵器だったから、なのかな…」
「あんまり心配しても私たち末端に政治的な決定権はないんだから、するだけ損よ。報告があるから残った誠司にしても、その点に関してはあまり私たちと変わらないし。イーニアスさんは何かと大変そうだけど」
「ヴァイスさんも、『あちら側』で報告だとか事後処理だとかしないといけないからって『穴』をあけるだけあけて、『こちら側』には来なかったですよね。出会って数ヶ月、色々と関わってはいるけど、いまだにあの人の立場というのがわからない… う~ん」
「………」
これには弥生が返答をしないので、無駄な沈黙が生まれたが、それに気を使うでもなく、滋はのほほんと何かを思い出して話を続けた。
「あ、そういえば、あの雷兵器、人間の魔法力を借りてそれを巨大水晶で増幅して、天に向って電撃を飛ばして巨大な雷として落とすって言っていたけど、もしあの巨大水晶に電撃を操る総督の細胞じゃなくて、弥生さんの細胞が使われていたら、巨大な炎が降ってきたんですかね?」
「…あんた、恐ろしいこと考えるわね。やめてよ、そんなことができたら今度は私が狙われるようなことになるかもしれないじゃない」
「いや、あくまで仮想です。それにあの水晶はもう作られないも等しいし…」
「危ないわ~ やっぱり理系頭の人って、実験、研究のためならとりあえず理性を一度どこかに置き去りにしているわね。ああ、怖い、怖い」
「何もそこまで… それに、それは別に弥生さんに限った話じゃないし… 能力者全てに言えることだと思うし…」
「あんたの結界が巨大化されたらある意味最強よね。最強の防御兵器。でも、いやぁ、やっぱり怖い。あんた、この業界のマッドサイエンティストみたいなキャラになれるかもしれないわよ」
「ええ? そう言われてもあまり嬉しくないんだけど…」
<了>
「雷を食らう」編、最後までお読みいただきありがとうございました。




