表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/76

個の次の発想

 周りが慌ただしい中、通信機を使ってヴァイスから連絡が入る。どこにいるのか訊ねれば、桐生たちが住む世界でリックたちと会った後だという。彼の携帯電話を使って、通信機に電波を飛ばして話しているそうだ。


「キャメロン君もいると思うけど、SSの勘は間違っていなかった。キャメロン君は総督の細胞から作られた、いわゆるクローンという奴だ。彼がまだ生まれて間もない頃にNUWがそこの総督と結託していた『こちら側』のとある国家から保護の名目で奪ったらしい」


 ヴァイスはもちろん日本語で話す。桐生は返事に変えて総督のクーデター、水晶の破壊、資料の焼却、そして逮捕、それらの流れを大雑把に説明してやると、すぐにそちらに向うという。これからどうするか、たとえこれ以上の関与を終了するにしても、ヴァイスがいなければ桐生たちは帰ることも出来ない。


「イーニアス、ヴァイスが戻り次第、俺たちは帰ろうかと思う。シペルの爆発の可能性がいますぐなくなった訳ではないにしても、毒の浄化の可能性がある上に、そのことをこの国の政治家たちが知ってしまっているんだから、これ以上は俺たち地方基地の末端がどうこうできる問題じゃないと思う。日本のUWの上層部に報告して、政治はそこに任せるよ」


「ふん、相変わらずすぐに地方基地の一隊長におさまろうとするな、お前は。政治学でも学んでさっさと幹部にでもなればいいだろうに」


「そういうの苦手だからね。それで、イーニアスも、シペルのことはこの国に任せるつもりなんだろ?」


「ああ、私もそのつもりだ。そもそも、シペルをこの国に帰した時点で私の任務は終了している。お節介をやきすぎた。この国も今後、財政や他国との外交で色々と問題を抱えることになるだろうが、もうそこまで構っていられない」


「SSも帰るかい?」


「当然だ。シペルの存在のために随分と振り回されたが、それでも雷兵器の製造元を破壊できただけで意味はあった。あの総督が今後どのように生きていくのか、それも少し興味はあるがな。我が国と手を結ぶこともできただろうに…」


「それはイーニアスが許さないと思うぜ。そうなるとまたイギリスのUWは割れてしまうぞ」


「すでに割れている。今更というものだ」


「ああそう。それじゃ、キャメロン君は… さて、どうしたものか」


「帰りますよ。リックたちと一緒に本国に。色々と体験させてもらったけど、楽しかったですよ」


 少なからず自分の出生に疑念を抱いたであろうが、明るくいられるのは頓着のない彼の性分か、それとも強がりか。イーニアスは無理に押し込めるのは良くないと思って、


「自分の出生についてどう思う? 仮に想像通りだとしたら」


 と、誤魔化すこともしないで胸の内から引き出そうとする。キャメロンの答えはこうである。


「いや、あまり興味はないですね。どんな生まれをしていようと、こういう能力がある時点で普通の人間ではないですし、それを言ったらあなた方だって同じですからね。今更生活は変わりませんよ。それに、こういう能力者として生まれたことにむしろ感謝しているくらいですから。『普通じゃない』って、格好がいい響きじゃないですか」


 子供じみた彼の性格を知れば、どうやら気を揉むのも徒労というものらしい。


「シペルさんは、どうするんだろう?」


 キャメロンは自分のことよりもそちらのほうが気になるようである。皆一斉にシペルへと目を向けると、彼も皆が言わんとするところを察したのか、顔つきも凛々しく改めて、小さく頷きながらUWの面々の顔を順々に見た。


「私はこの国に残ります。もともとそのつもりでしたから。死を覚悟で自分の運命の全てを終わらせるつもりでしたが、それもどうやら個人の驕りというものだと気付きました。個人の力の限界というものも今回の件でわかったような気がします。皆さんには心から感謝しています」


「残って、どう生きるんだい? 確かにあなたの爆発や毒は時間をかけて無くすことができる。加えて総督によって雷兵器の開発資料もなくなって、今後あの兵器も作られなくなるだろうけど、既存のものは世界各国に散らばって、それぞれで所有している。全て根絶されるまであなたの争奪戦がまた開始されないとも言い切れない。今後、以前のように農民として暮らすというのも難しいと思うけど…」


 桐生がそう訊ねるとシペルはまた頷いて、小さく笑ってみせた。


「私はこの国であの総督を見張り続けますよ。同時に、この国の議員を目指します。どうせ国によってしばらくこの身が守られることになるなら、私こそがこの国を動かす一人になればいい。他国にも牽制になりますからね」


 若い桐生たちには普段から政治家になるといった発想がない。その宣言は青天の霹靂で、しばらく間抜けた顔を作ってしまう。


「それは野心からかい? それとも強すぎる愛国心からかい?」


 試しにそんな失礼を聞いてみるが、シペルは笑い飛ばして、


「今回の件でいろいろと学ぶものがありましたから、健全に国のために生きていきますよ」


 と言う。イーニアスはすかさず、


「お前も見習ったらどうだ?」と桐生を冷やかした。



続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ