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頑固に感傷(後編)

「新しい研究や開発など、どの世界においても常に行われている。今このときにおいてもな。それは世界の運命。私などがどうにも出来ない話だ。私は潰せるものを潰すのみ。お前たちの仕事も同じようなものだろう。そしてお前はそんな私を潰そうとはしない。黙認はつまり私と同じ選択をしているのと等しい」


「仲間でも求めているのか?」


「まさか、そんなつもりもない」


 不意にSSのイヤホンに電波の悪い通信が入った。


「SS、総督はいまどこいる?」


「イーニアスか。地下だ。地下の兵器製造工場だ。あの大量破壊兵器の水晶の設計資料を自分の手で燃やしているぞ」


「お前は目の前にいるのか?」


「ああ、止める気もしない。相手も攻撃してこない。こいつはこれが終われば捕まる気でいるな」


「了解だ」


 その返事から間もなくして、SSたちのいる地下にイーニアスたちUWの面々のほか、シペルや首相、議員、そして数人の警官隊たちがぞろぞろと降りてきた。奥の一室から煙が流れ出しているのを見つけて先に先にと駆け出す首相や議員たちと入れ替わるように、出過ぎないイーニアスの目の前に物陰からSSが姿を現す。


「火を消せ! 早く消せ!」


 奥の部屋から怒号のように議員たちの声が響く。火の勢いはすでに強くなっている。水を持って来い、書物を運び出せと、てんてこ舞いである。火をつけた当人である総督は、のろのろと部屋から出てくる。何をしでかすかと思いきや、今度は並ぶいくつもの巨大水晶に向って電撃を放って破壊し始めた。周りにUWの面々や、火消しに走る警官たちがいようがいまいが、お構いなしであった。目に付いた巨大な水晶を悉く攻撃して、攻撃を重ねることでまた周りにも火がついていく。


「総督! 何を!」


 議員たちは血相を変えて奥の部屋から出てくるが、電撃を放つ総督に近づけなければどうしようもない。


「処分だよ、議員の諸君。そして首相。もうこの兵器の製造を停止してしまう」


「なんと身勝手な! これは国のものだということをわかっているのか!」


「私を処分すれば開発できない代物。残そうが破壊しようが同じことだろうに。止めたければ止めればいいだろう。私を殺してでもな。それでももう二度と作れまい」


 小火もあちこちに増える。次第、火事となり、この地下にい続ければ次には自分たちの命も危険に晒されるほど煙も充満しはじめた。議員たちも焼けた資料を捨てて身を屈め護衛に守られながら小走りに電撃の下をくぐって出口へと戻った。


「滋、議員や首相が出て行ったら結界を張れ」


「うん。でも、どうするの? 僕らは逃げないの?」


 首相も桐生たちに向って早く逃げろと促すが、桐生は拒否した。首相たちを見送ってから、


「総督、全部破壊してしまって気が済んだか? これからどうするつもりだ? 大人しく捕まるのか? 逃げるのか? それともこのまま火に呑まれて死ぬ気なのか?」と総督に訊ねた。


「そんなことをわざわざ私に聞かずとも、止めたいのであれば止めればいいだろう。捕まえたいのであれば捕まえればいいだろう」


「強気だね。俺たちが一番危惧するのはあんたの行方がわからなくなることだ。この場の水晶や資料を破壊しておいて、どこかの国に逃亡し、その国でまたあの雷兵器を量産されたら、この場の破壊も意味がない。その逃亡先がまたどこかの軍事国家だと余計に困る。SSの話じゃ捕まる気でいるというけど、その気持ち、本物かどうか確かめたい」


「して、どうすると? 回りくどいことは抜きにして結論を言ったらどうだ?」


 桐生は一呼吸あけた。息を吐き得ると清々しく総督を睨みつける。


「あんたをこの場で打ちのめす。別に殺しはしないが、完全に降伏して今後身勝手なことをしないと思うようになるくらい心を折るか、しばらく動けなくなるほど怪我をさせる」


 それは誰にも相談しないで桐生が勝手に下す決断であった。滋も弥生も「え?」と理解不能との顔をする。イーニアスは「ほほう」などと感心した。


「無茶苦茶な言い分のようでなかなか理にかなう。面白い。だが、手負いの私を相手にお前たち能力者が一斉にかかれば、まるでリンチだな」



続きます

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