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天命ではない(後編)

「なぜ邪魔をする?」


「私は長年、総督に仕えてきました! 常に国を思い、国の発展のために力と人生を注いできたあの人です。クーデターといった馬鹿なことするような人だとは思ってもいませんでしたが、それもきっと一時の気の迷い。あの人の国への思い、平和への希求を私は信じています! あの人は終わらせるつもりです。あの雷兵器の根本を、あの人の代で絶つつもりなのです!」


 彼らは銃器を使うわけでもない。暴力に出るわけでもない。体だけを使ってただ通さないとする。総督を信じて総督を今後も活かす為にというよりは、総督の最後の仕事のために時間稼ぎをしているかのようである。桐生もイーニアスも、総督のその最後の仕事が、果たしてどういった種類のものなのか見えてこない。破れかぶれでこの国が所有する雷兵器を乱射させるとも限らないとも想像する。


 軍隊の隊長は必死に止めようとするが、桐生はその跳躍力で隊の上を飛び越え、走って馬を追いかける。イーニアスも馬を用意して走らせ、首相も馬車を用意させる。首相が乗り込み、続いて護衛の者が乗り込もうとしたところを割って入って、シペルと、彼とともにやってきた弥生と滋、そしてキャメロンが乗り込んでしまう。議員の何人かも馬車を用意してそれぞれで走らせると、軍の兵隊たちでも押さえ込め切れなくなった。


 イーニアスは馬を走らせながら通信機を使ってSSを呼び出す。


「いまどこにいる?」


「総督の馬の影の中だ」


「どこに向かっている?」


「おそらく先ほど俺が侵入した指令本部のあるあの基地だ」


「よし、わかった」


 SSが影に潜んで同行しているとは気付かず、総督は基地へと帰る。腕もやられ、胸も蹴られて、その前には馬から転げ落ちもして傷めたその体を引きずるように建物の中へと入っていく。彼は階段を使って地下へと下りる。馬の影から建物の影へ、影から影へと伝って総督の後を追いかけたSSがその地下で見かけたものは、広い工場のような施設の中に、いくつも並んだ直径十メートルはあろう巨大な丸い水晶であった。有害な巨大雷を落とす大量破壊兵器のその一部が水晶でできていることは耳にしていたが、直に目にするのは彼も初めてのことであった。初めて目にしたものながら、間違いなくそれこそがそうだとすぐ理解する。


 総督は工場の奥の一角に設けられた一室に進み、その部屋に並んだ棚、机の引き出しから束になった資料を一心不乱に抜き出して、床の上に山積みにしていく。


「それは何だ? あの兵器の水晶の設計資料か何かか?」


 いつの間にか影から抜け出し、総督の背後で堂々とその身を晒すSSの姿がある。その手にはナイフを握り、いつでも戦えるように構えている。彼に気付いた総督も、さすがに驚いた。


「まったく、どういう能力か。尾行や潜入に関して君ほど上手くやってみせる人間を初めて見たぞ。時代も変われば、色々な能力者も出てくるというものか」


「そんなお世辞はいらない。質問に答えるんだ。それは、あの水晶を作る上で必要な資料だろう。それをまとめて、全てを処分しようと言うのか?」


「ふふ、そこまでわかっているなら聞く必要もないだろう。それで、お前こそどうするつもりだ? 私の邪魔をするか? 私を殺し、この資料を持ち逃げし、あの私のクローンも手に入れて、お前の国であの不完全で迷惑な大量破壊兵器を量産していくか? それを成功させられれば、お前はその国の英雄だな、大金持ちだ」


「だが、諸国からは悪魔の商人として忌み嫌われるな。お前がそうだったように… 見くびるなよ。俺は戦闘も暗躍もするが、全ては国のため、世界の平和の維持のためだ。大量虐殺をしたい訳ではない。進んで戦争を起こそうなどという気もない」



続きます

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