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天命ではない(前編)

 キャメロンは歓声を上げてしまう。実戦というものを初めて体験している彼は、相手の能力同様に自分の力もまた危ういことを忘れて、目にするモノ何もかもが新鮮で興味深く、只それだけでエキサイトしているようである。馬から引きずり落としたことで総督の目が自分に向けられていることも、どうやら見えていない。


「あれが、そうか…」


 瞠目して一人呟き、嬉々としているキャメロンを見つめながら総督はゆっくりと立ち上がる。変わらず手には電気が帯びている。警官たちが取り囲んで銃を向け、


「動くな!」


 と言っても、警告にも銃にも怯えることも一切せず、すぐに電撃を放って吹っ飛ばしてしまう。飛び掛ろうとしていた桐生も、その電撃の前では簡単に近づくこともできなかった。


 飛び道具を持たない桐生と違い、イーニアスは固めた光の刃を、二本、三本と投げつけて攻撃をする。回転しながら高速で飛んでいくその光の刃を総督も雷ですべて撃ち落とすことはなかなか難しく、連続で投げて寄こされるとそのうちに避けるだけで精一杯となる。そして分が悪くなると部下たちの方へと逃げるように走っていく。


「老人なのによく頑張る」


 桐生はそう言うと一気に駆け出す。総督も歳が歳だけに速くは走れないようで、あっという間に追いついてしまう。電撃を撃ち放とうとするその右腕を筋が切れるくらい激しく蹴り上げ、続けさまに相手の胸に後ろ蹴りを叩き込んでふっ飛ばしてしまう。軍の兵隊の目の前まで転がる総督に、隊の隊長は大声を出してその体を気遣うが、総督は気にするなと突っぱねた。


「老人なのにタフだ。でも、もう右腕は使えまい」


 再度立ち上がる総督の右腕には力が入らず、だらりと下がって電撃も操れない。左手から電撃を放って反撃をするが、一度に狙える範囲も半減して威力も落ちている。桐生には避けやすい。イーニアスは固めた光の刃を地面に何本も突き刺し、電撃を逸らす盾にしている。これもまた電撃を上手く弾いてもはや通用しない。


 総督の部下たちも体を気遣うばかりで警官隊たちと戦おうとはしない。明白に総督の不利である。さらに彼の目が見張ることがある。警官隊たちの後方に馬に乗ってシペルが現れるのであった。総督の胸も俄かに焦り始める。絶望という言葉も頭を過ぎる。加えて怒りも沸々とする。入り乱れる様々な感情に、総督は青ざめた顔をしながら不意に声低く笑い出した。


「そうか、そうか… 私のクローンもシペルも共に手に入れたということか。なるほど、私がいなくなったとしても、代わりはできていると… 新しい兵器の開発も出来ると… 私などはもう用なしだと… フフフ、天命ではないということか… ただの運命と… フフフ」


 不気味に呟くと、総督は足元に転がっていた拡声器を拾い上げた。


「首相、あなたの魂胆がよくわかった。私を不要とするならそれでも構わない。年老いた身だ、いつかは世代の交代を果たさなくてはならないだろう。しかし、しかしだ。それでもどうにも気に食わない。あの雷兵器は、私の代で終わらせる。いや、終わらせなければならない!」


 総督はこの期に及んでも電撃を放つと、どういうつもりかキャメロンに撃たれて地に横たわっていた自分の愛馬に直撃させる。すると怪事があって、馬は意識を取り戻し、体を震わせながら立ち上がるとすぐに総督の下に駆け寄ってくる。


「総督、それはどういう意味だ! 何の話だ!」


 首相が反問しても、総督は何も答えず馬に跨り、指令本部の方へと走らせた。


「あ、逃げた」


 急な敵前逃亡で、桐生たちも呆気にとられてしばらく追うのも忘れてしまう。


「追え!」


 首相の号令を耳にして彼らも警官隊たちも思い出したように走り出したのであった。すると、それまで総督に疑心暗鬼で戦闘に加わっていなかった軍の兵士たちが、このときに限っては自らの体を壁にして、警官隊たちを通さない。勿論その中にあの隊長の姿もある。彼が率先して体を張っている。


続きます

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