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一人のクーデター(後編)

 同じく拡声器を使って軍の背後で馬に跨りながら総督もこう応じる。


「世界にはびこる大量破壊兵器の製造に加担しながら、何が平和な国家というものか。その自覚もないまま、いや、自覚がありながら黙認し、行き詰れば他国の手勢を持ち込んで国を混乱せしめるのはどこの誰か? 命を掛けて国を守り、国家の繁栄に尽力した我が権力を凍結し、果ては我が軍に部隊を送り込み、その機能を停止して指揮系統を力で奪おうと謀ったのは、大量破壊兵器の利潤を我が物にしようとする私欲に目が眩んだが為であろう! この国家の安寧を真に脅かしているのはそちらのほうだ!」


「何を根拠のない話を口にする。己の蛮行をあたかも我々が行ったように言うのは卑怯極まりない! あなたこそ、私欲に目が眩んだ逆賊なのではないのか? そもそもそちらの要求はいったい何だ? ただ国に逆らい平和を乱すというのであれば逆賊どころか、気違いの類ではないか! 国を動かす権力か? それともただの私欲のためか? はっきりと言ってみるがいい!」


「我々が望むものは国の安泰だ。それを果たせぬ自分たちの怠慢を棚に上げて、矛先を我々に向けて誤魔化そうというのは、それこそ卑怯千万。その腐った性質を淘汰することがこの目的である!」


「なんと野蛮な論拠だ。それをクーデターというのだよ、総督! それもあなた一人のクーデターだ! 軍の兵隊を巻き込むものではない! 彼らの命をなんと考えている! あなたの私物ではないのですぞ!」


 さすがに総督率いる兵隊の中にもどよめきが起きる。どちらの言い分が正しいのか、俄かに集められ、進軍の命令を下された彼らが疑念に駆られるのも自然というものであろう。迎え撃つ警官隊からすれば、軍を動かしクーデターを謀ろうとするのは一目瞭然。士気の差で戦闘も有利に運べるのではないかとイーニアスたちも期待してしまう。首相もなかなかにやる。


「総督のこの進軍も、追い詰められた挙句の足掻きのようなものだからな、正当性があるとはとても言えない。国の防衛と国の繁栄を心底願いすぎて、周りが見えていないといっても過言ではない。もう暴走の類だ。見ろ、兵隊たちの顔付きを。戦闘を始める者のそれじゃない」


 そう言ってイーニアスが指差す先では、さらに兵隊の隊長らしき男が総督に向って直にその真意を確かめようとしている。軍隊にあって上官の命令は絶対だが、彼らの命は国のために使われるもので、個人のために使われるものでもない。逆賊のために部下の命を使うわけにもいかないその隊長を見ていると、中間管理職の葛藤や判断、迫られる決断に桐生などはつい同情してしまう。


「もはや議論の余地なし! 全員、進め! 議会を制圧しろ!」


 総督の号令が飛ぶ。だが、兵隊たちは明らかに気後れして、踏み出す一歩も緩い。軍の隊長も命令に従って無理に声を張り上げようとするが、周りがついてこないと知ると尻すぼみになる。兵隊たちは確実に疑心暗鬼にかかっている。


 総督はどうして進まないのかと問いはしない。何故と狼狽することもない。その隊の異常な雰囲気を前に瞑目すると、独り言のように何事か呟き始める。焦る隊長が声を掛けるが、まるで聞こえていない。


「これが天命か…」


 隊長の耳にその一言だけ聞き取れる。途端に総督は馬を走らせ、隊の中央を割きながら敵警官隊に向って駆けた。手綱も放してその両手に電気が帯びる。


「血迷ったか、総督!」


 首相も叫ぶが、総督も止まらない。横に並ぶ警官隊の盾の上から、後方の首相を目掛けて電撃を放つのであった。


「危ない!」


 間一髪のところで桐生が首相を抱えて跳んで直撃を免れた。すぐに警官隊は盾を使って総督の跨る馬を囲い込み、四方から押し込めようとする。だが、馬は暴れて易々とはいかず、総督もすぐにまた電撃を放って近づく警官隊を吹っ飛ばしてしまう。


「一人のクーデター、それで結構! だが、私がいなければこの国のこれまでのような繁栄はもう見込めまい! たった一人の人間に頼りすぎた国の憂いを思い知るがいい!」


 総督の電撃は盾を持つ警官隊を次々なぎ倒していく。拳銃で応戦しようとしても、どれも放つ前にやられてしまう。


「スゲェ能力だな」


「感心している暇はない。誠司、我々も出るぞ!」


 これ以上放置しておけば、あっという間に総督一人で隊を壊滅されてしまいそうである。まるで、もともと総督に九十人ほどの兵隊の力など必要なかったかのようである。イーニアスも桐生も目つきを変え、総督目掛けて走り出す。すると、その二人を追い越す形で背後からキャメロンの電撃が総督に向って飛んでいく。コントロールが甘いせいで総督には直撃しないが、跨る馬に当たって総督も落馬した。


「やった!」



続きます

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