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一人のクーデター(前編)

 イーニアスは直ちに首相の元へと戻って総督と軍の動きを報告した。精鋭部隊があっさりとやられてしまったことに首相も議員の皆も動揺を禁じえない。警官隊を配置して果たして太刀打ちできるのか、そんな弱音も中空を飛ぶ。この時間でこの街だけですぐに集められる警官隊も八十弱、官邸や議会の護衛も入れてやっと九十人ほどになる。すぐに伝令は下され、議会場の前の大通りに集結し、盾を持って待ち構えていれば、付近の市民や新聞記者たちも何事かと集まってきて、とてもその場を戦場にできる状態ではなくなってくる。総督率いる軍を相手にする前に、それら市民、記者たちの質問攻めの対応に苦労しているのだから早くも浮き足立っている。こういう時にSSからの連絡ですぐ側まで軍隊が行進していると告げられる。おかげで戦闘も前に隊がますます混乱し始めた。


 ただ、近づく軍隊を目にしてようやく市民や記者たちも事の重大さ、この場の危うさを悟り、蜘蛛の子を散らしたように逃げ出した。これで一応の迎撃の態勢は作れるが、首相たちは事情をよく知らない市民たちがこれから始まる軍と警官隊の戦闘を目の当たりにして、軍の味方についてしまわないかとも懸念した。議会場がバタバタとしてトップが冷静さを失えば、先行した精鋭部隊同様にたちどころにやられてしまうとイーニアスも危惧した。この国からすれば外国人、しかも「あちら側」のUWの人間である彼にはもちろん隊を指揮することなど許されない。助言をしようにもそれすら難しいほど場が落ち着かなかったので、ただ一言、


「我々も隊に混ざって迎え撃ちます」


 と言い残して、足早に外へと出た。彼が警官隊の背後に着いたときには桐生とキャメロンの姿もあった。


「九十対九十だ、互いに数が多いわけではないから街全体が火の海になるなんてことはないと思うが、あまり時間を掛けすぎると、両陣営共に地方から応援がやってくることになる。私たちは警官隊が軍とやり合っている隙をついて総督を取り押さえる。彼を止めれば軍隊も止まる。兵隊は気に掛けずに、総督一人を狙うんだ」


「キャメロン君はどうするんだ? 彼も総督に向って走らせるのか?」


「いや、彼は隊の後ろで待機して形勢次第では彼の電撃で相手側軍隊を一気に打ちのめしてもらう。これは相手の総督にも同じようなことが可能なわけだから…」


「警官隊がやられる前に俺たちが総督と対峙しないといけないというわけか」


「そうだ。そして佐久間滋たちが合流してしまえば結界能力で一気に我々の有利に持ち込める。そのタイミングで話し合いを持ちかけられるようならそうする」


「一つ質問だ。相手が相手だ、総督を生け捕りというのは相当に難しいと思う。あの力を無効化するためにも、シペルが合流したら彼を前面に出してもいいのかい?」


「悩むところだな。それはもうその場の状況による。我々で取り押さえられることが出来れば、それがベストだ」


 軍隊は大通りを進軍して待ち構える警官隊とは百メートルの距離まで接近し、そこで一度足を止めた。軍隊の武器は魔法力で威力を増強する中距離用のライフルが主である。迎え撃つ警官隊は大型の盾と、やはり魔法力で増強する拳銃が主な装備である。これ以上距離が縮まれば戦闘開始となるギリギリのラインで両者は対峙している訳である。兵隊たちは総督の号令を無言で待つ。


 この状況で首相が議会場から慌てて飛び出してくると、警官隊の背後から拡声器を使って総督にこう呼びかけた。


「総督、何故にこのような暴挙に出ようとする? この民主国家の安寧を乱し、平和を脅かして何の得があろうというのか!」



続きます

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