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桐生隊はマイペース

 火もつかない埃だけが溜まった季節外れの囲炉裏を前に座して、頭の整理とやらを繰り返すシペルの背後に、弥生と滋が立った。桐生からの指令で、通信機のイヤホンをシペルに渡す。もはや急を要し、一人思い浸る子供じみた態度もいい加減諦めて、いま目の前にある問題を解決するため行動するほうがよいと説得している。


「わかりました、すぐに私も向かいます」


 もう気持ちが整ったのか覚悟も出来たのか、意外なことに素直に了解される。しかも行動も早い。早速付近の厩舎に行って、夜も深く急務だからと、その家の主に声も掛けずに黙って馬を拝借している。桐生とキャメロンがいる中央広場へ馬の鼻を向ける。馬に跨るシペルの手綱捌きは慣れたものである。弥生もヴァイスとの二人乗りのおかげで、走らせるくらいまでできるようになっている。滋は… その運動オンチの程は割愛。シペルと共に二人乗りすることになった。移動中、桐生からまた連絡が入る。


「キャメロン君と合流したけど、色々と説明に困ってね、クローンの話は興味ないんだけど、同じ能力者がいるなら見てみたいと、妙なほど楽しそうに自分もついていくと聞かないや。そんなことで、彼も軍の施設に一緒に連れて行くことにするよ。ただ、問題なのはシペルなんだけど、俺個人としてはキャメロンと一緒に滋の結界で首相の官邸か議会場でまとめてガードしていたかったんだよね」


「何よ、何が言いたいのよ。回りくどいわね。イーニアスさんも軍の施設のほうに向っているなら、滋君一人で二人をガードさせるよりもキャメロン君と一緒にシペルさんも基地に連れて行けばいいじゃない。総督の力を真っ向から止められるのもシペルさんと滋君なんだし、その総督っていうのを私たちで止めらなかったら、どこにいたって同じなんでしょ?」


 と、弥生は半ば呆れたような声で聞く。


「おう、まさにその通り。危険も多いけど、そういう訳でお前たちもそのまま基地のほうに向ってほしいんだ」


「別にいいけど、あんた、今回何だかいつになく責任逃れというか、決断にもったいぶるところがあるわね。隊長職をイーニアスさんに任せられるからって、ちょっと気を抜いてない?」


 するとそんな苦言は耳触りとばかりに、さっさとシペルに通信機を渡して訳させろと桐生は言う。弥生も露骨に毒々しい声で「五月蠅いわね、ちょっと待ってなさいよ」と返事をした。「あ~、怖い、怖い」と言う桐生からすると、弥生こそ、今日一日どこかしおらしくて調子が狂う。それを通信機があることも忘れてボソリと呟いたりしたものだから、またいつもの口喧嘩を始めてしまう。イーニアスも聞いていれば、SSだって聞いている、日本でいえば未成年のキャメロンだって聞いている。また日本のUWの恥晒しである。普段の彼らに戻ったことは喜ばしいが、情けない。当の二人を差し置いて滋が赤面してしまう。イーニアスの笑い声が聞こえて、二人もようやくやめた。


「惜しいな、君たち。あと少し早く喧嘩を始めていたら、議会の場でいまのやり取りが全て流れていたというのに」


 キャメロンには、


「日本のUWって、楽しそうですね」と言われてしまう。どちらも褒め言葉になっていない。当の弥生は怒り足りないプンプンとした膨れ顔で恥も恥と感じていない様子である。


「お前たち、遊んでいないでいい加減気を引き締めろ。こっちではすでに戦闘が始まっているんだ。怪我人だってすでに出ている。死人が出てもおかしくない状況だ」


 余興に水を差すSSの言うことがもっとも理性的。日本のUW、特に桐生隊の面々は隊長がそうだからか全体的にマイペースで、作戦進行に寄り道も私語も多い。中にいるときは滋もそれほど気付かなかったが、他の隊の人たちと行動を共にすると、それを痛いほど実感する。



続きます

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