イーニアスからの電話(後編)
「うん? ちょっと待って。『あちら側』で保たれていたバランスを崩す存在なら、『こちら側』に保護しておいたほうが『あちら側』の世界のためには都合がいいんじゃないのか?」
「確かにそれも一理ある。だが、世界というものはそれほど甘くもない。雷を吸収できる彼が売買や交渉のカードとして役立つとなれば、『こちら側』の諸国でも欲しがるところが出てくる。恥ずかしい話だが、事実、私の国でも意見が割れた。条約に乗っ取って私の一派がすぐにでも帰すことを選んで極秘に行動していたが、バレてしまっていた」
「規模も大きく歴史もあって、しっかりとしているところだと思っていたけど、イギリスのUWも大変だね」
「規模が大きいほど、いろんな考え方をした人間がでてくるものだ。組織内でも右もいれば左もいる」
「それで、そちらの内部抗争に俺たち日本のUWも巻き込もうということかい?」
「乱暴な言い方だが、そうなることを否定はできないな。ただ、この件に関しては我々の国だけの問題でもない。莫大な利益が絡めば他国も動く。UWを冠している組織は世界にいくつもあるが、世界大戦以来、それぞれのUWはそれぞれの国の持ち物になっているからな。いくら情報を共有するため、定期的に国同士で会議を行っているとはいえ、いまでは外交の一つと変わらない。それぞれのUWは自国の国益のために動くものだよ。まして共産国や旧共産国の中にはUWとは無縁で独自に『あちら側』とコンタクトを取り、研究して、独自に能力者を抱えている国もいくつもある。情報が漏れ次第、どこが動くとも限らないし、どこの国でも動くものだ」
「そんなことを俺に話してしまっていいのかい?」
「問題ない。すでに日本のUWには知られている。君に隠す必要もなければ、むしろ君とは提携を結びたいので、私としては知っていてもらいたい。おそらく邪魔も入る。常に警戒もしてもらいたい」
「どちらにしても、俺は国の命令で動くよ。幸いなことにあなたが望む形で俺も動くことになっている。それで、邪魔をしてきそうな相手の情報はあるのかい?」
「現在調査中だが、たとえ我が国でも私以外のUWの者とはコンタクトを取らないで欲しい。我々一派でなければ、たとえ相手が日本のUWとはいえ、何をするかわからない」
「本当に内部で揉めているんだね。それで、あなたはどうするんです?」
「私も日本に向かう。君と合流し、速やかに任務を遂行する」
「了解だね」
「ああ、それと、ヴァイス・サイファーに『穴』の件で依頼する際は迷子の能力のことを伏せておいてほしい」
「う~ん、気持ちはわかりますが、あいつも『こちら側』の人間じゃないですからね。フリーランスに活動しているとはいえ、『あちら側』で太く繋がりのある国もある」
「噂によれば『阿国』。そうか、あの国も独自に兵器を開発しているという噂を聞くからな」
「それに、フリーだからこそ、どこの国とくっつくとも限らない。俺があいつに依頼したときにすでに情報が漏れていて、その上、どこかの国から仕事を請けていたら、あいつは途端に敵になりますよ」
「君らは友人ではないのかい?」
桐生は何やら可笑しくなってニヤリとした。
「友人みたいなものですけど、立場は違いますよ。敵になることもしょっちゅうです」
「そうなってくると、彼に依頼するタイミングが重要になってくるな。早すぎても駄目なら遅すぎても駄目」
「いっそ、さっさと依頼して、いい条件をつけて、完全にこちらの味方につけてしまうというのも一つの手ですけどね。もしかしたら、もうすでに遅いかもしれないけど」
「ふむ、なら君はすぐにでもヴァイス・サイファーと連絡を取って欲しい。あの男の行動次第では、『あちら側』の世界の情勢が著しく変わってしまう可能性もある」
「あいつもそこまで馬鹿ではないと思うけど、連絡することに関してはとりあえず了解です」
「よし、ではそういうことで。気をつけてくれよ」
「了解」
続きます