見極めて次第
「そのことはまだこの国の首相には伝わっていないのか?」
「ああ、おそらく。いま初めて吐露したことのようだし。あの医者が一人で抱えて一人で秘密にしていたみたいだからね」
「なら、首相のほうには私から伝えよう。ついでにシペルを今後どのように扱うか話も聞いてくる。彼を匿わず、彼を使って強引に戦争などを起こさないよう、釘を刺しておかないことには、また彼を巡って余計な争いが起きてしまう」
こう通信機でやり取りをしている桐生とイーニアスの間を割いて、今度はSSが話しかける。
「イーニアス、甘い考えはやめろ。この国でシペルを囲わせるくらいなら我々で保護すべきだ。そうでなければ我々がこの国にやってきたことが無駄足となる。首相に全てを話すこともやめろ」
「それは、争奪戦を宣戦布告しているようなものだな。我々が先に先に動こうとすれば、日本のUWもいる、NUWもいる、あのヴァイス・サイファーもいる、どれも素直に認めてくれるとも考えられないだろう」
そこにまた桐生が割って入る。
「まだシペル自身も、これからどうすると何とも言っていないしね。彼の爆発の危険がなくなった訳でもないし、時間をかければ毒の浄化ができると知った今となっては、これまでのように俺たちに従順でいてくれるわけでもないと思うよ。どちらかというと彼は頑固な性格だからね」
「フン! だからこそ、強引にやらなくてはならないだろうに。お前たちの言うこともわかるが、こちらとしてはシペルがどのような判断を下し、この国がシペルをどう扱うのか見極めさせてもらう。ことによってはシペルを拉致し、我々の国に連れて帰る。お前たちとしても本音では俺と同じ考えのはず。自国に連れて行き、保護するのが一番得策だと考えているはずだ」
桐生もイーニアスも事実そのつもりであるから、それ以上の抗弁もない。キャメロンに確認をとっても、彼は小難しい政治の話やNUWの利権などにまだまだ興味もないようで、三人の意見に従うと言う。自分を一兵卒と割り切っている分、キャメロンは気楽なものである。
「それでSS、お前はいまどこにいる?」
「例の発砲男が連行されていったという署の中に紛れ込んでいる。今となっては、ここにいる意味ももうない…」
会話の区切りがいいのか悪いのか、SSの通信がそこで一旦途切れてしまう。いや、どこかおかしい。SSの名を呼んでも、応答がない。しばらくの沈黙。その後に、
「おい、大勢の警官に連行されてきた男が聴取もなしに釈放されることになるぞ。あれは軍の関係者か? これはいったいどういうことだ?」と、SSが卒爾に言う。
「軍の人間があいつを逃がすってことか? SS、医者の話だと軍の中にはその発砲男と繋がっている輩もいるらしいぜ。発砲男は俺たちの世界の人間だけど、その国はどこかの軍事国家だとか言ってた。そいつが釈放されてまた動かれると面倒だな。確実にシペルを狙う」
「そんな国に拉致されるくらいなら、やはり我々で保護してしまったほうがいいだろう」
「とにかく、その男の監視を続けてほしい。軍のどの階級の人間と繋がっているのかも知りたい。その権力如何で、シペルが乱用されるようなら、あんたの言うとおり、俺たちで保護するのも正当な考えかもしれない」
「桐生誠司、まだまだお前のほうが話がわかる。了解した。だが、その隙にお前たち日本のUWだけで勝手にシペルを連れ去るようなことはするなよ。そんなことをすれば、恨みを持って今後お前たちをずっと付け狙う」
「そんな脅しはいらないよ。俺たちを信じなさいっての」
続きます




