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とんだ責任の取らせ方と意外な告白(後編)

「シペル、よく聞け。政府や軍にも黙っていたが、お前のゴム毬内に蓄積されたエネルギーと毒は、長い年月をかければ自然と消滅する…」


 こう医者が喋り出すと、桐生たちも自分の耳を疑ってその周りに正座した。


「それは、本当ですか?」


「ああ、本当だ… 蓄えられたエネルギーは、お前が生きていくための血となり栄養となって消費される。そして何より、そもそもそのゴム毬の一番の役割は… 悪しき魔法兵器の毒素を浄化させることにある… 吸収した雷のエネルギーもその浄化機能のエネルギーとして使われている… 私が、私の知能と魔法力を注いで作った一品だ、間違いは、ない…」


「でも、どうしてそんなことを黙って… 他国ならまだしも、自国やその軍を騙すようなことをして、私にまで…」


「お前にまで黙っていたことは謝ろう… 幾度か実際に魔法兵器の雷を吸収する実験を行わないと確証を得られなかったこともあったからな… それに… 浄化には年月がかかる… それが問題だ… 今の段階で傷がつけば、実際に爆発もする… たて続けに雷兵器のような巨大な雷を、それこそ十数発と吸収しても、蓄積に限界が訪れ、やはり爆発を起こしてしまう… 私は… この国のため… 世界の平和のため… またあの魔法兵器の毒素から人々を救うために、良かれと思ってこの毬を作り上げ、君という能力者に埋め込んだ… だが、すぐに君の存在が、兵器によって保たれていた世界の軍事的バランスを崩すかもしれないことにも気付いた… そして、軍だ。我が国の軍は、『あちら側』のある軍事国家とも繋がっている… どう利用されるとも、どう量産されるともわからなかった… だからこそ、ゴム毬の力に使用制限があるような嘘が必要だった。情報操作が、必要だったんだよ… 結局軍もその国と仲違いしたようだがね… それによってシペルを拉致しようとして、私までこのようにやられてしまった… ただ、気をつけろ… 軍の中には、まだその国と繋がっている連中もいる… スパイが潜り込んでいる可能性もある…」


 あの出鱈目発砲男の素性も少しは見えてくる。世界各国の外交事情というものは、小さな組織がどうにか介入して全てを解決できるような易い繋がりではないことを桐生は改めて思い知らされた。


「では、私は、私はどうすればいいんですか? いま、そのように事実を伝えられて、死も覚悟で国やあなたに責任を取らせようとしていた私は、次にどうしろと?」


「お前は、無理に摘出手術をする必要はない… これから命を狙われることは多々あっても、毒の浄化がその胸の中で済むまで、隠れるか、逃げるかすればいい。そして浄化が済めば、再び雷を生む魔法兵器と戦えばいい… あの兵器がこの世からなくなるまで… あの兵器と戦え…」


「でも、それでは世界のバランスが…」


「世界のために戦おうとするから… 無理が生じる。崩れるバランスなら、いっそ崩せばいい。私は気付いた。世界はそれでもいずれバランスを修復しようとする。世界はたった一人の人間によって変わりはしない… 一時的に変わっても、それが永遠と続くことはないんだよ… 思い上がりは捨てて、祖国のためにその力を使い、戦え… その祖国が腐っているなら、それを捨てて、別の国に移れ… より信頼できる国に移って、罪滅ぼしとして、崩したバランスの修復を手伝え… それがお前の戦いだ… そして、お前の責任だ…」


 医者は言うだけ言うと、酷く咳き込んで、そのままうつ伏せた。死んではいないが、どうやら気を失ったようである。


「私の戦いは、まだこれからだということか… 早々に死んで、妻のところに行くのも悪くないと考えていたが、まだ死ねない身…」


 自分の運命に慄くシペルを尻目にふとヴァイスが腰を上げる。


「ヴァイス、お前はどうする?」


「爆発の危険がなくなった訳ではないにしても、こう事情が変わってくると、次の行動もなかなか難しい。この事実が広く知れ渡ったとしても、結局彼を拉致しようと諸国が動く。世界はまた水面下で彼の争奪戦となり、下手をするとそれが引き鉄になって戦争が起きるとも限らない。なんにせよ、彼をうまく隠すか守るかする手立てを考えないといけない。それも浄化にかかる長い年月とやらの間をずっとね」


「そうだよ、その年月ってのは、実際どれくらいかかるものなんだ?」


 それこそ改造した医者が知っているが、当人は現在夢の中である。


「俺は少し席を外すよ。ちょっと長電話をする必要がある。色々と報告しないといけないこともあるからね。あ… あと、回復の能力者の件だけど、その協力は得られなかったよ」


「そうか。お前の依頼主、阿国の女帝はどう判断すると思う? あの国だって、魔法兵器を持っているんだろ?」


「うん? さあね。これから確認するけど、強力すぎる殺戮兵器は、別にその雷兵器一種類だけじゃないからね」


 滋の結界も解いてもらい、ヴァイスは一度外に出る。



続きます

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