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嫌な可能性(前編)

 まだまだ警官たちと銃撃戦を続ける出鱈目発砲男の意地は、扱う武器が武器だけに付近の家屋や塀を破壊して、市民の中から怪我人も何人か出す。警官の中には重症のものも見受けられる。多勢に無勢とはいえ見境のない攻撃に桐生もいよいよ腹立たしく思え、気絶させたスナイパーを家の中で見つけた縄で縛り上げると、ただちに外へと出て屋根に上り、そこから出鱈目男目掛けて庭で拾った野球のボール程の石を二つ投げつけた。正確無比の絶妙な制球力でバズーカと同化した肩と、拳銃を握っていた手の甲に命中させる。出鱈目男の肩は上がらなくなり、拳銃は落としてまって、すぐに桐生へと振り返ったときには、今度は額目掛けて石を投げている。出鱈目男も、それは紙一重のところで避けて直撃を免れた。続けて桐生は高々と跳び上がって空中で得物を抜き、そいつに襲い掛かる。危険に対する嗅覚だけは非常に鋭い発砲男は、これは拙いと瞬時に判断すると、桐生が着地するよりも前に背中を向けて走って逃げ出してしまう。また、その足がなかなか速い。捨て台詞に、


「私ハマタ来マス! 次ハ容赦シマセン!」


 と、言う。懲りない意地とその根性だけは認めてやるが、言い方から態度から、何から何まで人の癪に触れるのが得意な男である。逃がしはしないと足元の手ごろな小石を拾っていると、さて顔を上げたときには出鱈目男の足が止まっている。見れば道の向こうから大勢の警官たちが押し寄せている。その奥には馬車から降りるイーニアスや滋、シペルの姿も確認できる。


 出鱈目発砲男もついに拳銃を持った警官たちに囲まれ、どこにも逃げようがない。一斉に押さえつけられ御縄を頂戴した。


「ちょっと待て。連れて行く前に奴が拷問に掛けたという医者の居場所を吐かせろ」


 イーニアスは頼む。だが、街の警官たちは聞く耳を持たない。さっさと署に連行して、聴取はそれからだと言う。


「オウ、アナタタチ、残念デスネ! 私、何モ喋リマセンヨ!」


 囚われても捨て台詞は吐く。おまけに、怪我をしたから治療しろだの、弁護士を呼べだの、喚き散らしている。こうなってしまえばむしろ捕まったほうが身を守れると開き直っているかのようである。逞しいというか、頭がいいというか。もしも憎たらしさが悪の判断基準とするなら、奴は相当な悪だと、イーニアスも不快を口にした。


「僕たちも、署に入って聴取に立ち会えないんですかね?」


 滋が聞く。イーニアスは護衛という名目でついて来ている軍の男に打診してみるが、役人の返事は悪い意味で役人じみている。部外者だから無理、首相に確認が必要等々、芳しくない。桐生はSSと連絡を取る。現状を確かめると、スナイパーを一人捕まえたと返事がある。こちらの状態を説明し、署に潜伏して出鱈目男から情報を引き出すように頼んだ。すぐに了解されると、それと入れ替わる形で、今度はヴァイスから連絡が入る。


「誠司、医者を見つけた。弥生ちゃんが向った村で発見したよ。おそらくここはシペルの家」


「本当か? それで、医者は無事なのか? 拷問に掛けたとか言っていたけど」


「いや、よくはない。重症だ」


 イーニアスが通話の内容をシペルに訳していると、彼は直ちにそちらに向うと言う。容態の確認もそうだが、話をしたいそうである。桐生もイーニアスもそれを止めるつもりはない。


「その村のスナイパーは、もう捕まえたのか?」


「ああ、軍の特殊部隊が捕まえてしまって連れて行った。おそらくもうこの村に危険もないだろう」


「了解した。今から向うよ」


 馬車を利用しようとする桐生と滋だが、イーニアスだけは乗らない。


「私はこれからまたあの首相と掛け合ってくる。改造を施した医者が重症で、もし、そのまま死ぬようなことになれば、摘出手術が出来なくなってしまう。そうなった場合、シペルをどう扱う気でいるのか確認してくる。この国自身がシペルを取り抑えて、彼の存在を隠すなり、または消してしまう可能性も考えられるからな」


 護衛の男たちに一瞥をくれてイーニアスは二人が乗る馬車をすぐに走らせた。乗り遅れた護衛たちは二手に分かれ、一人は馬車を追った。一人はイーニアスと行動を共にするようである。


「下手なことはしないでくださいよ。我々があなた方を殺さなければならないことになる」



続きます

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