我々も動くぞ(後編)
シペルの案内のもと、彼らは一旦、その足を近くの新聞社の方へと向ける。官邸より百メートルほど先にある。この国には珍しく四階建てのビルである。屋内で詰めていた記者に、イーニアスはいまこの街の西方で起きていることを知らせ、またこの国に隣国からのスナイパーが潜んでいる事実をリークする。シペルの存在を伏せながら、スナイパーらが巡っているものは、この街くらいなら吹っ飛ばしてしまう大きな爆弾であるとも告げ、同時に毒まで拡散すると付け足す。そう告げるだけ告げると、早々に立ち去ってしまう。
「こんなことをして大丈夫なんですかね?」
滋は心配を口にする。
「間違ったことは言ってはいない。彼が防御兵器として機能している間は軍の極秘機密にしておくべきものだろうが、いまの彼は市民や国民を巻き込む大量破壊兵器とも呼べる。国民が自分の身を守るためにも、少しは知っておく必要がある。それに、彼ら新聞記者も裏を取る必要がある。我々が知らせたことなどまだ種に過ぎない。彼ら記者たちが調べ上げて情報となる。その情報の力によってそのうち民意も動く。民意が敵になるか味方になるかわからなくても、それによって国は何かしらの決断を下さなければならないことになる。それこそが首相たちの責任となる」
「シペルさんの思い描くようにならなくても、ですか?」
「ああ。だが、我々はあくまで我々の思い描く形でこの件を終わらせるように動く。ここまで来て、中途半端なことも出来ないからな。我々はこの国の人間ではない。この国の法を全く無視するようなことはしないが、それでも我々の正義は我々にある」
小難しく言い包められる。言わんとすることは解り辛いが、それでも医者を救出することに変わりはない。滋はそこだけは合点した。
彼らは桐生と合流するため西方へと駆け出す。と、突然軍服姿の筋骨粒々な男二人が前を遮った。
「首相からシペルを護衛しろと命令されました。スナイパーが狙っているとか」
「護衛ではなく監視では? あいにく彼のガードは我々の能力で完璧にできている。そんなことよりも我々の掴んだ情報をたよりに潜伏するスナイパーを捕まえることに人を回してもらえる方が助かるんだけどね」
「よし、わかった。情報を貰えればすぐに別働隊を派遣させる。だが、我々二人はあなた方と共に動く」
「まあ、いいだろう。では早速動いてもらおう。まごまごとはしていられない」
護衛の二人ともスナイパーの情報を共有すると、イーニアスはすぐに通信機を使って、そのことを桐生たち味方全員に知らせた。スナイパー捕縛をこの国の者たちに任せ、自分たちは西方で合流するように指示を出す。ただ、ヴァイスは情報収集がまだ残っているため、現状集められる限り集め終えたところで合流すると言う。キャメロンも、彼自身は中継役に飽きてきたところで合流する気も満々であったが、ヴァイスが動いている以上、通信機の中継役をやめられないということで動けないと言う。さらにSSはすでにスナイパーを一人見つけて捕縛に掛かろうとしているというので、それが済むまで動かないと拒否をする。弥生も、結局皆がまだまだ動かないのに自分一人だけというのも癪に障る上に、いま別のスナイパーのもとへ向っている最中だから、引き返すよりも一人くらい捕まえてから行くと聞かない。
「皆さん、勝手ですね…」と滋は苦笑いをした。
「恥ずかしいことながらな。誠司の普段の気苦労もよくわかる気がする」
「ハハ… 弥生さんは、実際にいい人なんですけどね。たまに反逆的になるというか、上の人になかなか屈しないときがあるというか。いや、任務には忠実な人ですよ。責任感もあるし」
「別に気を使って、君が下手なフォローをしなくてもいい。どちらにしろスナイパーは撃退しなければならない。医者の救出と捜索を我々だけで頑張るしかなくなるだけだよ」
そう皮肉のように言ってイーニアスは無線を使って桐生に現状の確認を取り始めた。
「発砲男が暴れているね。これ、怪我人も出るんじゃないかな。というか、あの発砲男がなかなか撃たれないところが不思議だ。こんだけ銃弾が飛び交っているのに… 相当、運の強い奴だな、あいつ」
こう桐生から返事がある。
「誠司、近くのスナイパーを今すぐにでも捕まえてくれて構わないが、シペルを改造した医者が近くに囚われていないか、それも確認しろ」
「いや、ここのスナイパーはもう捕まえてある。目の前で気絶しているよ。医者の居場所だけど、近くを一応探してみるけど、でも、あの発砲男に直接聞くほうが早いかもね」
「了解だ。我々もすぐにそちらに向う」
続きます




