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我々も動くぞ(前編)

 首相との会話の最中、イーニアスと滋のイヤホンより桐生たちの交信の声が何度も飛び込む。


「どうやら、郊外で銃撃戦が起きたようだな。誠司が直接戦っているわけではなさそうだが、いまいち状況がわからない」


「そうですね」


 すると、この官邸にもバタバタと人の駆けつける足音が轟く。どうやら首相の秘書らしい。この男、イーニアスたち侵入者を見るや、その目を引ん剝いてしまう。


「お前たちは何者だ!」


 首相がすかさず客人だと制する。逆に何事かと訊ねれば、秘書は首相にだけ耳打ちをし始める。


「西方で銃撃戦という話では? バズーカを発射する男と警官とが衝突しているとか」


「よくわかるな。まさか、君たちが関与していることか?」


「直接ではないにしろ、近くに隊員がいます」


 シペルは難しい面持ちでイーニアスの顔を見上げた。


「西方というと、私の体にゴム毬を埋めてくれた医者の住む辺り。まさか、そういうことですか?」


 下手にはぐらかしてややこしくするのもイーニアスの性分でもない。彼は素直にその可能性を肯定する。医者の身を案じるシペルの顔がますます険しくなる。そこで桐生に確認を入れてみると、すでに拉致されている可能性があると告げられた。これにはイーニアスの顔まで曇った。


「その医者が戻らなければ、いったい誰が摘出手術をできようか」


 そう首相も言う。心配しているのかこちらも心痛な面持ちを作る。だが、イーニアスたちの偏見によれば、どこかその旨のうちに安堵を抱いているようにも見える。摘出手術ができなくなれば、首相も難しい選択に悩まされることもない。さらに首相は、バズーカを乱射する狂ったテロリストの出現で市民が心配なら、取り押さえる警官たちの指揮も心配だと、対応のために議会に向うと告げて、シペルたちの話も途中にして足早に官邸から去ろうとする。状況が状況ゆえに待てとも言えないので、イーニアスたちも後について行く。シペルは話足りないらしく歩きながらまだまだ口を開く。


「首相、相手の狙いはおそらく私です。私をどうにかしなければ、このようなことが今後も何度でも起きます。私は大量破壊兵器に成り下がっただけではなく、争いを生む種となっているのです」


「そんなことはわかっておる。だからこそ敵が動けば我々もすぐに対処する。いまはそれだ。医者の生死もわからない状況で、その問答もしていられないだろう。君は君の言い分ばかり押し付けてくるが、確率的に危険の多いことを易々と承諾できるわけでもない。多くの国民を巻き込むようなことはできないのだよ。我々はその多くの国民のために存在し働いている。いまこの状況にあっては責任論を語るよりも、国や国民のために自分が何を出来るか、何をすべきか考えるべきだ」


 イーニアスはシペルの肩を掴む。それ以上、この場で付きまとうことの無駄を諭す。彼らを置いて官邸を出て行く首相の背中を三人で見送りながら、


「それでも、これはある意味でチャンスかもしれない。国民が君の存在を知らず、君のゴム毬の危険性を知らないのであれば、この状況に乗じてそれを広く知らしめることができるかもしれない。そうなればスナイパーも君を易々と狙えまい。摘出手術にしても首相が重い腰を上げないなら民意に問い、それを味方につけるというのも一つの手だ」と言う。


「その民意が障害になることもあり得るのでは?」


「確かにそれもあり得る話だが、ここでじっとしていても始まらない。医者の生死を確認して生きているなら救出もしなければならないからな。我々も動くぞ」


 まだまだ合点とまではいかないが、一応の理解を持ってシペルも頷く。彼らも首相の官邸を後にした。



続きます

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