八人で「あちら側」へ(前編)
「実際のところ、どうなんだ? 君の結界は、たとえばこの近辺半径五百メートルほどを一度に吹き飛ばすような爆発を止められるのか?」
表情乏しくイーニアスも聞く。滋は慌てて、
「無理に決まっているじゃないですか」と答えた。
「確かに、電撃くらいならどうにでもなるけど、重い衝撃を何度も重ねられると押されていたこともあったわけだし、それが大爆発となると、単純に考えても止めることはできないだろうな」
そう桐生が補足する。誰もそんな爆発の中で滋の結界を試したことがない。常識的に考えると不可能である。
「彼の体力からして結界を張ってもそんな爆発なら彼ごと吹っ飛ばされそうなもの。でも、意外と彼自身の被害はそれほど大きくないんじゃないかと思うんだけど、どうだろう?」
と、ヴァイスも聞く。
「どうだろうと言われても…」
この面子で滋は一番の新人である。作戦の肝を任されることに慣れていない。青ざめた顔で苦笑を浮かべれば、誰もが同情する。その一連の話を聞いていたシペルはこう口を開いた。
「これは私の我が儘から出た話です。協力していただくことに感謝の気持ちしかありませんが、そうかといって皆さん、特にその結界の彼を死に至らしめるようなことは避けたいと思っています。皆さんがそこまでこの件に関して責任を負うことなどありません。責任を負わなければならないのは私や改造した医者、そしてあの国そのものなんです。私をその医者のもとへ連れて行ってくださいとお願いしましたが、皆さん、やはりその前に私を私の祖国の中央政府に連れて行ってください。私は私が抱えるエネルギーのことを国の首相に話します。国王にも伝わるよう計らいます」
「そうして、どうする?」
イーニアスは腕を組み直しながらそう訊ねた。
「政府の協力のもと、先に私の命を狙うというスナイパーを捕まえます。その後で、やはり政府の見守る中で私の毬の摘出手術を行います」
「それだと君は、スナイパーを捕まえ終えた段階で、我々を『こちら側』に帰してしまう考えだな?」
「本当ならスナイパーの捕獲も自分たちの国だけでしなければならないと思っています」
「いや、一度決めたことだ、私としてもその協力を今更断るつもりはない。だが、君はそれで本当にいいのか? 聞けば聞くほど、君自身、どこかで自分の死を覚悟してものを言っているように聞こえるのだが?」
シペルが答える前に今度はヴァイスが割って入る。
「ふと疑問に思うんだけど、あなたの国の政府はあなたの毬の摘出手術を、爆発と毒の拡散の危険もあると知ってちゃんと許可するものですか? あなたの存在が煩わしくなれば、政府はあなたを、毬を傷つけず絶命させることを選ばないんですか?」
シペルは頭を垂れる。口元は笑っているが目の色は物憂い。ヴァイスの指摘は十分すぎるほどあり得る話である。国と共に責任を取ろうとしていながら、その国が彼自身を消そうとすれば、兵士として忠義を尽くしてきた彼にとって、これほど残酷で救われないものはない。彼自身、その可能性に気付かないほど頭も悪くない。それでも自分の祖国を信じていたいという気持ちがある。同じく国のため、世界のために奇妙な現象と人知れず対峙し、時に戦っているUWの面々には胸に沁みる話である。UWではないヴァイスでも同情してしまう。
「私の祖国は、そうしないと私も信じていますが、しかしそれを裏切ることもある場合は、面と向って脅すつもりです。私の絶命を実行するよりも先に私が爆発させる、と」
今度は桐生が間に入り、
「強気だね。ただでは死なない気持ちは痛いほどよくわかったよ。俺はどちらにしても最後まで付き合うつもりだよ。融通の利かない政府なら反抗してやりたいし」と言う。
彼が動くなら同じ隊で組織上部下である弥生と滋も必然的に動くことになる。弥生たちの目から察するに、彼女たちも桐生に同意である。
続きます




