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下手糞な交渉(後編)

 キャメロンの声に振り返ったリックたちの目にはその光景は奇妙に映る。桐生やイーニアスには紛れもなくSSの仕業だと、すぐわかる。


「先ほどから好き放題に言ってくれるが、これでこの男の電撃の能力とやらも使えまい。そんな下手糞な交渉など諦めて、お前たちは国に帰ったほうがいい」


 キャメロンの影からSSの声がする。電撃の能力者も肉体的には普通の大学生となんら変わりがなく、腕力でSSの拘束から逃れることは出来ないようである。それでもキャメロンも抗う。後ろに回された手に電気が帯びると自分の影に向って放たれる。その一部が方向を変え、木の陰に隠れていたシペルの方へと向って高速で飛んでいく。


「きゃっ!」


 電撃が木を打ち、床を叩いた衝撃が弥生にも伝わる。堪らずその場で倒れ、目も眩んだ。直撃したシペルは、その電撃のエネルギーを吸収して怪我もない。


「キャメロン、やめろ!」


 リックの声が轟いたときにはキャメロンも能力を止めている。速さ、衝撃、共に電撃の能力の凄さを体感する桐生たちだが、何よりそれが上手くコントロールし切れていないことに恐ろしさを覚える。


「SS、平気か!」


 しかし、返事もない。見ればキャメロンの拘束も解けている。木の側ではシペルの手を借りて弥生が起してもらっている。彼女はどうやら無事のようである。


「お前たちのその焦りよう、電撃を吸収して爆発というのも、まんざら嘘でもないようだな。だが、ますますお前たちに渡すわけにもいかなくなった。お前たちはアメリカ本国に彼を連れ帰って研究するつもりだろうが、いつ自然発生した雷を引き付けて吸収してしまうとも限らない彼をどうやって保護するつもりなのか。そんなリスクを背負って、それほどまでに彼の能力とゴム毬に魅力があるというのか?」


 リックたちは、銃口を向けるだけで返事もしないので、イーニアスはさらにこう続けた。


「我々のときと同じように輸送中に雷に打たれることだってある。そうなれば、お前たちだって死んでしまおう。国のためか? 世界平和のためか? 自分たちの身をかけてやり遂げようとしているその果てにお前たちは何を得ようとしている? 私にはまだまだ理解できない」


 イーニアスの語気も強い。手にはいつの間にか例の懐中電灯を握り、光の刃が出来上がっている。


「滋、弥生たちの側に行って結界を張れ。お前が彼のガードをすればNUWの連中にはもう何もできない」


 そう桐生が指示を出すと、頷いて滋が駆け出した。閉口していたリックの顔色が青く変わり、銃口を滋に向けて発砲する。二発、三発と放たれ、そのどれもが外れた。銃声にびっくりした滋は慌てて結界を張り、張りながら弥生たちのもとに駆けつけた。


「目立ったことをしてくれて」


 そう呟いたと思うと桐生も駆け出す。滋に気を取られていたリックの正面まで詰め、手刀で彼の銃を叩き落としてしまう。リックの部下の他の二人が桐生に銃を向けるが、向けたと思った時には、どこかに潜んでいたヴァイスが一人の背後に立っている。延髄に手刀を叩き込み、一撃で気絶させてしまう。もう一人の男にはイーニアスが、作った光の刃を根元から折り取って投げつけている。額に的中させて、これまた一発で気絶させてしまう。


「刃だけじゃなく、棒状にも固められるんだね、それ」


 呑気なことを聞く桐生はすでにリックの背後を取り、スタンディングのスリーパーホールドで絞め上げていた。



続きます

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