言い争いと固い意思(後編)
「意気込むのはいいけど、いくらあなたでも桐生誠司を相手にして一対一ならともかく、一対ニでは無理でしょう。それに『穴』を見つけるのもそれなりに時間が掛かる。しかも、この場所からだと必ずしもユーア国に抜けるとも限らない」
ここに弥生が口を挟む。
「誠司もそのヘルメットの人も、帰さないっていう考えで邪魔するって言うなら、私もこのローウェルさんとあんたたちを抑える」
そう桐生の前に立つ。
「おお、君は確か平塚弥生。そう言ってくれると本当に助かる。でも、君に誠司を抑えられるかい? 私が彼の相手をしたほうがいいのでは?」
イーニアスも悪気はないが、彼女のプライドを刺激するようなことを口にするので味方のはずなのに力一杯睨まれた。
「でも、勘違いしないで。ただ帰すつもりはないから。あくまで誠司が帰さないって言う話なら、あいつを阻止するだけ。でも、あいつだってただで帰すつもりはないって考えなんだから、いまから私が言うとおりにあいつにも動いてもらうわ。『穴』が開いたら私たちも『あちら側』に一緒にいく。あの迷子の人を守りながら、スナイパーがいるって言うならその人たちを全部捕まえる。どう? これならローウェルさんも帰せて終了、反対するのはあのヘルメットのあの人だけになる!」
一間の沈黙を置いて、桐生もイーニアスもヴァイスも弥生もシペルでさえも、揃ってSSへと振り返った。
「それにしてもお前、珍しく大胆なことを考えたな。熱でもあるのか?」
桐生が弥生の額に手を添えようとすると、彼女はハエでも払うように手で撥ね退けた。
「そんなものないわよ。あんたが頭ばっかしで怠いことをしていただけよ」
「あのな、俺もそれと同じようなことを考えていなかったわけじゃないの。でもな、その作戦には頭数がいるだろ。一人や二人でできるもんじゃないだろう。その説得をするためにも俺はあれこれとこの場でバランスを取っていただけだよ」
「そういうことって、自分で口にしないほうが格好がつくと思うけどね。私は同情なんかしないわよ」
シペルは、弥生の提案をヴァイスに訳してもらう。聞きながらうんうんと頷き、
「そこまでしてくれるというのであれば、私は、彼女に従います。私は必ず故郷に帰り、あの国で摘出手術を施してもらう。私の任務はそれで終わる」
と、彼もようやく自分の思うところを口にする。ヴァイスは真顔で、
「手術に成功しても、失敗して命を落としても、あなたの毬は消滅する。任務の終わりは兵士としてのあなたの存在の消滅をも意味しますよ」と言う。
「でも成功すれば死ぬわけではありません。私は元々農民の出、命が続けばそこに帰るだけです」
「裏を返すと死んでも構わないといったところか。農民に帰ることを必ず許されると限った話でもないでしょうがいい覚悟です。残る毒の封印のことも何か考えはあるんですか?」
「いえ、それは今の私にはまだ… ただ、国に帰って国の人たちに相談させ、どうにかしてもらうつもりです」
「それもまた国に責任を取らせるという意味ですね?」
「ええ。もっとも、それもこれも、スナイパーを上手く退けられた場合の話。皆さん、どうか助力のほど、よろしくお願いします」
シペルはそう深々と頭を下げる。それは彼の祖国の習慣ではなく、桐生たちを見ていて真似たものである。
「俺の任務は水晶の完全機能停止だ。帰して摘出手術を施すというならあなたに協力することに何の問題もない」
と、ヴァイスも答える。
「俺も問題ないね。よくシペルさんの覚悟もわかったし、それが最もいい方法だと思うしね。イーニアスはどうする?」
と、桐生も言う。
「う~む、帰せばそこで終了と行きたいが、この日本に運ぶまでに私もいくつかミスを犯しているからな。君たちに義理立てする意味でも協力しても構わない」
さて、皆の視線がまたSSへと向けられる。
「どうする? ここで退くか。我々に抵抗して痛い目にあうか」
イーニアスは厳しいことをSSにぶつけるが、彼が答えるより先に桐生はこう言う。
「いや、いっそお宅も協力すればいい。人手が多いほうがこの仕事には助かるんだ」
この桐生の性分は、只のお人好しである。だが、ヴァイスも弥生もそれは嫌いではない。
続きます




