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本物のイーニアス登場(後編)

「そうは言っていない。私も彼を保護した者だ。彼と色々と話し、真面目な彼に情も湧いている。だがどうだ、彼の故郷にスナイパーがいたとして、彼を狙っているとしても我々にどうしろと? 帰さずにずっと『こちら側』に保護したほうがいいというのか? 『こちら側』での争奪戦がこれからも続いてしまうぞ。『こちら側』で毒を拡散させてしまえばそれこそ大問題だ。それこそ止めるべきなのでは? それとも日本のUWが爆発を覚悟で保護し続けるとでも?」


「沢村さんたちにはスナイパーの話はまだしていない。シペルを保護し、SSからの追跡を回避しながらあんたと会っているということになっている。俺たち日本ではそんな結論はまだ出ていないよ。俺個人としてはできるならゴム毬の摘出手術をしてやりたいけど。まあ、そんな俺たちよりも、まだ直接話していないけど、アメリカのNUWはこの状況を知ってそれでも保護すると言っているらしいよ」


「何? NUWともコンタクトをとっているのか?」


「いや、俺の隊員が一緒に行動している、っていうか捕まってる」


「NUWか、もはやすでに争奪戦が始まっているといっても過言ではないな。その目的はもちろん軍事活用。ゴム毬の摘出手術もすることはないだろう」


「お宅らイギリスの別の派閥も同じような考え方だろ?」


 嫌味なことを言われて、さすがにイーニアスもムスッと膨れた顔をする。顎に指を添え深く唸ると、突然辺りどこにと定めずSSの名を叫ぶ。いるなら出て来いと英語で呼ぶ。フルフェイスのヘルメットを被ったSSが近くの歩道脇に生えた木の陰からスルリと現れ、足音も控えめに近づいてくる。影の弾は作っていないが、気配からその準備だけはできている。


「イーニアス・ローウェル。上手く日本語を聞き取れなかったが、エネルギーや毒とはどういうことだ? それにNUWだと? お前たち一派はあの雷を食らう男を使って何をしようと企んでいる?」


「いや、それは君の妄想だな。私たちは何も企んではいない。シンプルにずっと同じ目的で動いている。彼を故郷に帰す。それだけだが? 企んでいるとすればシペルを取り巻く様々な国や組織だ。それらによって状況が変わり、いま我々も一つの選択肢に直面している。そういうことだろう」


 具体的にエネルギーや毒のこと、NUWが首を突っ込んできていることも説明する。するとSSも唸る。それでもこちらは自国で保護することを元より考えていた一派だけに、選択肢に迷うこともない。この中の誰よりもシンプルに考え、自国での保護を訴えて、反対するなら力尽くでシペルを奪うと言い、街灯に照らされ伸びた自分の影で弾を作ってしまう。


「はて、暴力で訴えてくることはないんじゃなかったっけ?」


 桐生は皮肉を呑気に聞く。


「だから、私が抑えるといっただろう」


 イーニアスも腰に手を回してベルトに括った縦長の革のポーチから形が西洋武器のメイスに似た懐中電灯を取り出し、グリップのスイッチを入れて灯をつける。横一文字に伸びる光に手で触れると、触れた光が瞬く間に固まって刃に化ける。


「あ、そうか。その能力って、対ゴーストでも非常に有効だったな。あの影にも通用するってことか」


 SSも影の弾を作ったまではいいが、構えるイーニアスに攻撃を仕掛けるでもない。仕掛けたくても返り討ちにあう為、仕掛けられない。


「君が、私や桐生を相手にそのシペルをこの場で奪い去ることはほぼ不可能だろう。いい加減に諦めて、シペルを祖国に帰すことに君も協力してくれないものか」


 武力を背景に説き伏せるのも一つの交渉手段である。悪ではない。しかし、この場においてイーニアスにも誤算がある。桐生誠司がシペルを「あちら側」に帰してしまうことに賛成しているわけでもないのだ。

「おっと、何の考えもなしに強引にシペルを帰してしまおうっていうなら、俺はそっちの見方もしないぜ」


 と、シペルを背にして、彼もまた得物を抜こうと構える。



続きます

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