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電話越しの指示(後編)

「じゃあ、どうすればいいのよ?」

「情報だけはあり難く思うが、合流する気は俺としてはいまのところないな。ヴァイスともまた連絡取れなくなってしまったし、イーニアスの意見も聞きたい。お前たち、捕まっているのか?」


「そういうわけじゃないけど、でもそんなものね。私はいま外で話しているけど、滋君はまだバンの中だし」


「ふ~ん、面倒くさいな。それで、相手の力量は?」


「電撃を扱う能力者が一人。能力者じゃないけど銃を持った体格のいい男が三人よ」


「よし。お前、そのまま逃げろ。俺たちはまだ千葉にいるからお前は合流だ」


「滋君は?」


「あいつは捕虜。でも、あいつの結界があれば相手は何もできない。逆に吹っ飛ばすことも可能だ。あいつには俺から電話をしておくよ。じゃあ、そういうことで」


 一方的に電話を切られる。弥生は罵詈を電話越しに浴びせたいところをグッと堪えてあたかもまだ通話中であるかのように演技し、一人で喋りながらバンから遠ざかってそのまま駅の中へと入ってしまう。バンの中から弥生の姿を確認していたリックたちも、すぐに車を飛び出すが、駆けだした弥生の姿を見失ってしまう。焦る彼らの背後で滋の電話が鳴る。出てみると、もちろん桐生からである。


「弥生だけ逃がした。お前、一人でそいつらと行動しろ。できる限り時間を稼げ。結界を使っていい。場合によっては吹っ飛ばしても構わない。それじゃ、またあとで」


 それだけ告げられ、すぐに切られてしまう。急な話で何がどうなっているのか戸惑う彼に、リックたち三人は車の外より銃を突きつける。


「動くな!」


 滋はゆっくり両手を上げて抵抗の意思がないことを示す。だが、掲げたその両手にはしっかりと結界の準備ができている。


「妙な動きをするんじゃないぞ」


「でも、僕は僕の身を守ります。それと、誰か一人でも弥生さんを追いかけるようなら、僕は内側からこの車を破壊します」


 滋の手より胸の前で透明の壁が出現する。脅しではないことをリックたちもすぐに理解する。


「彼女がどこに逃げたか教えるつもりはないんだな?」


「僕からは言いません。というか知りません」


 キャメロンは肩を竦める。下手に逆らって機材を破壊されることも嫌って、彼はリックを説得し始めた。三人は銃を下して渋々車に乗り込む。エンジンをかけ、すぐに発進させた。


「君が喋らなくても、このキャメロンがシペルの居場所を掴む。しかし、わからない。彼女がどうして逃げたのか。我々の理屈が理解できないほど、彼女は馬鹿なのか?」


「僕も詳しくはわかりませんけど、隊長の指示に従っているだけだと思いますよ。うちらの隊長にも都合がありますから」


「君は逃げないのか? その気になれば逃げられるんじゃないのか?」


「逃げていいんですか?」


 リックは一間置いて、


「いや、駄目だ。君がいればまだ君らの隊長たちとの話し合いができる」と答えた。


「僕も同じ考えです」



 さて、駅の中へと逃げ出し、大急ぎで千葉方面の電車に乗り込んだ弥生は、車内を見回してリックたちを振り切れたと分かった所で大きな溜息をついた。どこで合流するのか具体的な場所を確認しようとメールを打とうとするが、キャメロンに知られてしまう可能性があるとすぐに気付いてやめた。電話も、ここは電車の中でマナー違反だからと我慢する。電話をポケットにしまったところで、


「あれ、弥生ちゃん?」


 そう彼女の名前を呼ぶ男の声がある。びっくりして振り返ると、そこにヴァイスが立っている。


「どうして、ここに…」


 ヴァイスを前にすると弥生の声はどうにも切れが悪い。


「仕事でね。多分、君らと同じものだと思うけど」


「誠司が、探してた。連絡が取れないって」


「さっきから『あちら側』と『こちら側』とを行き来してたからね、そのせいかな。千葉から抜けたと思ったら、戻ったときには東京に出てしまったり。なかなか行き来も思いどおりにはいかなくてね。それで、君はいま何を?」


「誠司たちと合流をしに…」


「なるほど、なら俺と同じだね」



続きます

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