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NUWたちの理屈(前編)

「その前に、あんたたち、昼前に私たちの地元で襲ってきたデタラメ発砲男とは関係があるの?」


「それは我々ではないな。君たちの電話を盗聴させてもらって、君たちが襲われたことは我々も知っているが、おそらくUWではない、どこかの国が抱えている能力者の仕業だろう」


 通訳の男は殴られて鼻血まで流しているのに、チリ紙で栓をしながら怪我した恨みも持たずに律儀にきちんと答えてくれる。


「あんたたち、いつもそうやって盗聴だとかハッキングだとかして、この国で情報を収集しているんじゃないわよね?」


「いつもではない。緊急事態といった必要なときだけだ。そもそも、そんなことはどこの国でも行われている」


 隠さず素直に話すのは、裏を返せば重大なことでもないからである。取るに足らないことだと言い切られると、弥生もひとまず黙る。


 NUWがシペルについて知り得ている情報は以下の通りである。彼が雷を食らう能力者であること。改造を施して、魔法兵器の巨大で有害な雷も無害に吸収できること。彼の存在のために「あちら側」の情勢が変わって戦争が起きる可能性があること。そんな彼を巡って「あちら側」でも「こちら側」でも争いが起きていること。イギリスのイーニアス・ローウェルはその彼を「あちら側」の彼の故郷に帰すつもりでいること。日本のUWもそれと手を結んで帰そうとしていること。そしてシペルの体のゴム毬に蓄積されたエネルギーがいつか限界を超えて爆発を起こし、同じく蓄積されていた危険な毒が拡散する可能性があること。ゴム毬を傷つけても爆発する恐れがあること。そのゴム毬を手術で摘出するか、傷つけずにシペル自身が死ねばゴム毬も機能を停止してしまうが、毒を封じる問題が残ること。これらを惜しみなく弥生たちに告げる。


「我々はさらにそのシペルを巡る『あちら側』の動きにも注視している。我々が知り得たところでは、シペルの祖国には、すでに隣国よりスナイパーが潜入して待機しているという話だ。彼が故郷に戻った時点で彼そのものを消してしまうつもりだろう。世界のバランスを保つために隣国がそういう行動に出るのも仕方のないことかもしれない。ただ、果たしてその隣国が彼のゴム毬のエネルギーと毒のことを知っているのか知らないのか、我々もわかりかねている。知らずに爆発させても、知っていて爆発も承知で狙撃しても、彼の故郷に甚大な被害が出る。それだけで大問題だ。最悪のケースは、それを引き合いにして戦争が始まることだ」


「あなたたちは、それを止めようとしているって、そういうことなの?」


「そういうことだ。イーニアス・ローウェルや君たち日本のUWが何も知らずに彼を帰すことは阻止しなければならない。ゴム毬を傷つけずに彼を絶命させて毒をどうにかするか、手術で彼のゴム毬を摘出してどうにかするか、もしくは彼をより安全なところに運び生きたまま保護してしまうかだ」


「あんたたちはその三つの内、どうしようとしているの?」


「それはもちろん、保護だ。我々NUWが彼を預かる」


「何だかんだ言っても、施設や組織の規模はあんたたちの国が世界一だもんね。もっともらしく聞こえるけど、でも、何か納得できない…」


 滋を見ると、彼も相槌を打つ。


「アメリカの皆さんは、その人を保護した後、必ず何かしらの研究はしますよね。しっかりと調べてからアメリカ自身がその人を新しい兵器として活用するんじゃないんですか?」


 滋は素朴に聞く。その指摘は真っ直ぐ的を射ている。相手も返答に窮し、苦し紛れであるがこう答えた。


「世界のどこかが彼を保護し、より平和的に利用できるよう研究しなければならないなら、世界で最も軍事力を有し、世界の警察として活躍してきた実績のある我々の国こそが、もっともそれにふさわしいだろう。考えてもみたまえ、これがどこかの軍事国家に渡ってしまっては徒に世界のバランスが崩れる。戦争も容易に起きよう。一番の大国が最高の兵器と兵力を所持することで世界というものはバランスを保たれるものだ。二番目の国でも、三番目の国でも駄目。群雄割拠はもっとも秩序を保てないからな。君たちもこの理屈がわからない歳でもないだろう」



続きます

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