表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/76

桐生VSフルフェイスの男(後編)

 桐生は真顔でいる。すぐには答えられない。まさか刺客にそう力説されるとも思ってもいなかった。フルフェイスのヘルメットという格好が格好だけに、また平気で刃物を抜いて物騒なことをするだけに、インテリジェンスに欠けるかと思っていたが、それは偏見らしい。末端でも末端なりに考えるところもあれば、その考えが必ず幹部より劣っているとも限らない。桐生はふと、この目の前のヘルメット男に奇妙な共感を覚える。


「条約、条約というが、イーニアスのやり方は、あれはただの責任転嫁だ。『あちら側』のことは『あちら側』で処理すべきと帰してしまっては、均衡を保つUWの本来の目的に反する。条約が旧態依然で現代の風潮の前では錆ついているというなら、その条約を変える気で行動を起こさなければ、もともとの理念も達成できまい」


「う~ん、しかし、それも考え方の違いというものだろう。気持ちはわからないでもないけど、こと条約やルールの改変にまで話が上ると、それこそ末端が決めていいものじゃない。俺も、ルールを破ることはあっても、破った後は咎められることを覚悟しているぜ。己一人で改革、というつもりも一切ないし」


「己一人じゃない。俺には味方もいる」


「お宅は何かい? 俺を勧誘しているのかい?」


「それはお前の勝手だ。だが、考えろと言っている。お前たちが俺たちの邪魔をする意味を問え」


 そう言われて判断を簡単に変える桐生でもない。とはいえ、このヘルメット男の言い分に興味がないわけでもない。語ることの、その語りがもたらす結果というものに興味がある。彼も問答は嫌いじゃない。参考程度に、


「仮に、お宅らにあの人を渡すと、お宅らはどうやってあの人の力を増産する? その目算はちゃんとあるのかい? それとも理念だけかい?」と問う。


「プランはある。クローン化計画も上がっている。だが…」


「だが、まだ実行できる段階でもない。お宅らのやろうとしていることは相当に無理がある。いくら『あちら側』の住人であれ、人のクローンは認められていない。そんな法や倫理も、時代にそぐわないから無視すると言うなら、お宅らの思想はやはり危険なものに聞こえてくる。俺は兵器によって病気になったり能力に目覚めた人物と、この間、直接会った。自然に反し、人為的に作ったものの副作用によって悲劇を被る人物の気持ちは、他人の勝手な理念で癒されるものでもない。まして雷を食らうあの人には、お宅らが考えているほど都合のいいものばかりを持っているわけでもない。それに伴う不都合や自分たちの身をも脅かす危険も含んでいる。あの人もある意味で被害者だ。その被害者が自らの体について自ら決着をつけようとしている。イーニアスに同調するわけじゃないが、結果的にやはり俺はあの人を帰すことを選ぶよ。お宅こそ、考え方を変えることを考えてみては? 案外に、少ない情報の中だけで勝手に自分たちだけで判断しているのかも知れないよ」


「どう説いても、大人しく我々にその男を渡すつもりはないということか?」


「もともとのことだろ。お宅らの気持ちや考えがわかっただけでも俺としては収穫だけどね。まだまだお宅らとも話せる余地はあると思うよ。少なくとも自国の利益だけを求めて、そのためには個人の不幸も、世界の均衡も知ったことじゃないっていう国よりかはマシだ。できることなら、お宅らも一度イーニアスたちとじっくり話し合うべきでは? 日本とイギリス、出資者は違っても、同じUW同士で血を流しあうのも不条理なものだと思うしね。それとも、ここでお宅が退いたら、お宅自身にもう帰る場所がないとでも? お宅ら派閥の考え方が本当にお宅の言う通り確たるものを持っているなら、そんなことでお宅を切るような馬鹿なことも組織はしないだろう」


 さて、相手はどうでるか。受け入れられず、また戦闘になっても次は確実にねじ伏せようと柄に手を添える。


「桐生誠司、お前たちはあの男について、我々の知らない何かを知っているな?」


「イーニアスに直接聞いてみてはどうだい? あいつももうじき、日本にやってくる」



続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ