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二度目の保護(後編)

 それからどれほど経ったか。数時間か、数十時間か、一日以上か。


「お~い、大丈夫か~!」


 浜に打ち上げられたトレンチの男は、人の声で目を覚ます。開けた眼にまず先に飛び込んできたのは太陽の眩しさである。それを遮るように、角刈りに捻り鉢巻を巻きつけた色黒の中年の漁師の男の顔がヌッと現れた。尚も大きな声で、大丈夫か大丈夫かと何度も聞く。ここは天国か地獄か、この男はどちらの使いかと、彼は朦朧とする頭で考えた。いや自分はまだ生きていると気付いたときには、おおよそ十辺は「大丈夫か」との声を耳にした後であった。トレンチの男はこの土地の言語をまったく理解できないが、人が心配する顔はどこも共通である。彼はむっくり起き上がる。そして全身、頭の天辺から足の爪先まで痛みに痺れて、またすぐに仰向けに倒れてしまった。漁師の男は、これはいかんとすぐに救急車を呼んだ。


 「あちら側」にて生まれ育ったトレンチの男はこちらの世界にやってきて救急車というものに乗ったのはこれで二度目である。四輪の自動車も彼の故郷では珍しい。「こちら側」と自分たちの住む世界との文明の差を目の当たりにし、科学の進歩とやらに何度も驚かされる。搬送先の病院の施設も自国と比べて器具も技術もものがちがうはずである、自分はその高度な病院での手当の後、「こちら側」の人間ではないと判明次第、特別な施設に引き渡されるだろうと彼は考えた。あの飛行機の中にいた組織の男たちがそうしたように… 男は彼らのことが気の毒であった。悪い人間ではなかった。彼らはイギリスという国に仕えていると言っていた。あの事故では無事であるとも思えない。実に申し訳ないと胸奥で呟いた。


 搬送途中で眠り、病院のベッドの上で彼は目を覚ました。それから体力の回復も半ばで、すぐに別の病院に移され、特別病棟の個室に入れられた。しばらくして医者が、身なりを整えたスーツ姿の男を二人連れてきた。


「君は何者だ?」


 もちろん彼には言葉が通じない。数分後、また別のスーツ姿の男が加わる。「あちら側」の第二言語としてポピュラーな「エグル語」で話しかけて、ようやく会話が成り立った。


「やはり、君は『あちら側』の住人か? 君の体を調べさせてもらったが、君の胸の中にはゴム毬のようなものが埋め込まれていた。ゴムと言ってもタイヤのゴムのような堅さだ。君はいったい何者だ? その体は何だ? どこから来た?」


 これらの質問をされるのも、彼にはこれで二度目であった。答える前に、スーツ姿の男たちに、所属する組織の名前を訊ねる。男たちは、一度は返事を躊躇ったが、やがて、


「日本のUWだ。聞いたことがあるか?」と答えた。


「イギリスという国にも同じ名の組織があった。私はそこで匿ってもらっていた。だが、色々と問題が生じて私はその国を離れることになった。その途中で、私たちの乗っていた飛行機が嵐にのまれ、雷に打たれて墜落した。そしてここに流れた…」


 イギリスの国名が出ると、スーツの男の一人が確認を取りに部屋を出る。残った男たちは彼のことを「いわゆる迷子」と断定した。


「『あちら側』の住人であれ、君の体はやはり特殊だ。体にゴム毬を埋め込まれた人種など聞いたことがない。それは生まれつきか、それとも必要があって、もしくは実験的に後になって埋め込まれたものなのか?」


「生まれつきのものではない。私の体はある目的のために改造された。体内に埋め込まれた毬がそうだ。体と同化しているため取り外しはできない。無理に取り出そうとすれば私はおそらく死ぬでしょう」


「目的とは、いったい何だ?」


「私には雷を食らうという能力がある。その特技をより有効に効果的に伸長させる為に、です」


 UW側は一つ唸った。


「君は『あちら側』のどこかの国の軍人なのか?」


 これもすでにイギリスにて答えている。渋ることなく、


「正規の軍人ではないが、軍にいたことは確かです」と答えた。


「君の国はどこだ? それと、君の名前はなんと言う?」


「名はシペル。国はユーア国。あなた方にお願いがある。どうか私を国に帰してほしい」




続きます

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