表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/76

意思の確認

 一方、シペルを背負って逃げ出した桐生はまっすぐ基地に向っていたが、その途中でヴァイスからのメールを受けて、そこに書かれた「単独で動け」という一文を確認してすぐにタクシーを拾う。シペルと共に乗り込み、どこに向うか迷っている暇もないので、


「とりあえずできる限り東京方面に走らせてください」と運転手に告げる。


 振り返ると先ほどのヘルメット男の姿が見える。すぐに発進させてみるみる距離が離れて相手も見えなくなると、そこで一息つく。


「先ほど知り得た話なんですが、あなたのその体のゴム毬、爆発の恐れがあるそうですね? しかも毒が拡散されるとか…」


 桐生はエグル語を使って淡々と単刀直入に聞いた。シペルは物憂そうに一度俯いた。


「そこまで知り得て、あなた方はどうします? やはり私を故郷に帰してくれますか? それとも軍事目的で私をどこかの国に売りに行きますか?」


 桐生はひとまずそれには答えない。


「その事実を知っているのは『こちら側』でも『あちら側』でもどれくらいいるんですか?」と聞く。


「それは、どちらの世界であっても、ごく一部の者しか知らない。私を魔法兵器から守るために利用しようとしている国は、まだおそらく知らないでしょう。『こちら側』で私を保護し、調べたのはイギリスと日本だけ。そのイギリスのUWでも、あのイーニアス・ローウェルとその周りの一部の人たちだけが私の毬の危険性について把握していたようです。だから私をまず国外に逃がし、私の故郷に帰すよう手筈を整えていました。逆にあなたに聞きたい。私のこの毬のことを知っている人はどれくらいいるのです?」


「いや、この国でも知っているのは俺くらいのものかな。多分… それにしてもイーニアスはその危険性を知っていながらあなたを日本に移動させようとしていたのか。名目はヴァイスと連絡が取れる俺、ということだろうけど。自国を危険に晒さないためとはいえ、あの人もしたたかだな。後で絶対に文句を言ってやらないと」


「私もこの国で毒を拡散させるようなことは絶対にしたくはない。あなたたちは私によくしてくれている。私が故郷に帰れればほとんどの事にカタがつく。どうかお願いします」


「もちろん、そのつもりです。そのエネルギーや毒の話を聞いてますますそう思う。ただ、帰した後はどうするんです? あなたのその言い方を聞いていると、まるで死にに行くようにも聞こえる」


「己の命を引き換えにこの件の全てを終わらせる、と言いたいところですが、私はそんなに格好のいい人間でもありません。私だって命は惜しい。まだ生きていたい。たとえ国のためとはいえ、簡単に命を捨てるわけにはいきません。そこに意義がなければ、ただの犬死です。なにより、この体は私一人の意思によって改造されたものではない。医者、技術者、政府、故郷、色々な方面の平和への願いがあって作られた結晶です。しかし、その結晶がいま新たな争いを生んでいるなら、皆で責任を取り合うべきと考えます。私の死によって私一人で解決してしまっては、誰の胸にも反省の色は薄く、いずれまた私のような人間が作られるだけです」


 シペルと言う男の性分は心に義の根を張り、知恵を咲かせて意固地にならない。無理やり徴兵され無理やり改造されただけの、被害者の如き元農夫の下級兵士と思えば間違いで、随分と理性的な男である。こういうタイプは一筋縄ではいかない。


「なかなか格好がいいこと言いますね」


「一人で責任を取りたくないだけです。上層部にも取ってもらわないと仮に死んでも死に切れない。ただそれだけです。文句が多いから兵士としては失格です。あなた方の戦闘能力はとても人間のものとは思えない。本当に素晴らしい。あなた方のほうが私の目には格好がいいものです」


 褒められても何も出せず、情報を色々と聞きだすつもりが、話が変な方に向いてそのうえ行き詰まる。妙に手持ち無沙汰となってふとバックミラーに目を移すと、明らかなスピード違反でグングンとこのタクシーに追い迫る黒いセダンを目にする。慌てて振り返ると、その車の運転席にはあのフルフェイスのヘルメットを被った男が乗っている。


「どこまでもしつこい」


「どうしました? お客さん」


 放っておけばまず追いつかれ、このタクシーごと攻撃されることは目に見えている。右手には海浜、左手には商店街がある。目立つところで戦闘は避けたいが、このタクシーを巻き込むわけにもいかないので、財布から五千円札を取りだすと、すぐに下車した。


 釣銭を受け取らず、シペルと共に海に向って走る。黒いセダンは道も強引に越えてしつこく彼らを追いかける。いくら桐生が目立たないように努力しても相手はこちらの都合など構いもしない。ここが自国ではないからなのか、それともイギリスでも同じように周りの注目や迷惑も気にせず暴れるのか、どちらにしたって無責任なやり口は気に食わない。


 浜に出る。人の姿もちらほら見える。派手なことはやれない、とにかく人のいない場所まで走るが、黒のセダンは浜だろうが構わず入って来て、後を追いかけてくる。これにはいよいよ桐生も癇癪に蓋が出来なくなる。立ち止まって得物に手を添え迎え撃つ構えを取る。すると相手も運転を止めて車から出てくる。その手にはナイフが一本、歩いて距離を縮めながら、自分の影の一部を切り取ってドッジボールくらいの丸いエネルギーの塊を作る。


「この影の弾は、貴様の得物じゃ切れないぞ。怪我をしたくなかったら、大人しくその男を渡してもらおうか」とフルフェイスの男は英語で言う。


「忠告どうも。あんたも、周りにほとんど影がないけど、隠れ場所は大丈夫かい? もっとも、あってもなくても、どちらにしても俺は逃がさないけど」



続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ