表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/76

千葉の病院での面会(前編)

 千葉県某所、桐生は関東区域を統括するUWの地下基地に到着すると、沢村と言う男性職員と会い、その案内のもと近くの病院へと徒歩で向う。


「イーニアス・ローウェルが日本に来るそうですよ」


「その話なら聞いている。我々も彼と交渉することに決めたからな。あの雷を食らう能力者の争奪戦を『こちら側』で行うべきではないと我々も判断している。だが、すでにその動きが出ている。聞いたかい? 君らの基地でイーニアスを名乗る偽者グループが現れたことを。戦闘になって一人を捕まえたらしい」


「うちのところで怪我人は?」


「いや、話によるとゼロだ。よくやってくれている。捕まえた一人は研究所に送られたそうだ。おそらく国外の能力者だろう。まだ国の特定はできていないがね」


「どうしてまた、うちらの基地に… その能力者を拉致するなら直接病院を狙うだろうに、不思議だな」


「いや、すでに一度病院には来ているのかもしれない。潜入したが、その男の病室がどこにあるのか発見できずに帰ったとも考えられる」


「なるほど、なんでもないところが迷路のようになっちゃう『幻惑領域』とかって呼ばれている能力を使う人がいるんでしたね、千葉には」


 桐生もその名の能力を使う能力者が誰なのかは知らされていない。沢村こそがその能力者ではないかと疑ったこともあるが、資料の上では一般の人間とされている。年齢は桐生の倍の四十歳。配偶者あり。子供あり。常時スーツ姿で髪を六四ほどに分けて前髪を上げている。それを整髪料で固めて風が吹いても靡かなければ、性格も誰に媚びうることもなく仕事に忠実の真面目気質とくる。そうかといって冗談が一切通じない堅物でもなく、場を選んで高々と笑うこともあれば、表情を変えずにとぼけたことを口にして、それが戯言と周りに気付かれずに流されることもしばしばある。仕事は交渉事が専門で、政治家とも談ずる役職にある。


「それで、君のほうのヴァイス・サイファーとのコンタクトの件はどうなっている?」


「まだ繋がりませんね。伝言は残しておきましたけど」


「勝手に基地に進入しているときもあれば、繋がってほしいときに繋がらない、まったく難しい相手だ。どちらにしてもあの男が協力してくれない限り、この仕事は長くなるだろう」


「日本では、意思の統一はできているんですか? イギリス国内では二つに割れているそうじゃないですか。ただ帰すとか、交渉に使うとかで」


「我々としても色々と意見は出ている。出てはいるが、割れるようなことにはなっていない。イーニアスと交渉する、この線ではっきりと固まっている。確かに我々としてもあの能力者を色々と調べてみたい。あの能力者に何ができ、どこまでできるか情報が少ないからね。我が国で保護して『あちら側』の均衡を保てるというならそれもしようというものだ。もっとも、情報が世界にすでに漏れてしまっている現状では、それも諸国が許さないだろうがね」


「条約に基づいて帰したとなれば、あとに他国から文句を言われても理屈が立つ。というわけですよね?」


「そうだな」


「ただ、その男をその男の祖国に帰してやると、『あちら側』の情勢は変わるわけですよね? またどこかで大きな戦争が始まるんですかね」


「それはわからない。起こるとも言えるし、あの能力者一人だけでは起こらないとも考えられる。そんな『あちら側』の戦争を危惧するあまり、この日本を危険に晒すことはないというのがこの決断の理由だよ」


「なるほど、了解です。そうなると問題はやっぱりヴァイスになってくるなぁ」


 病院の正面玄関を通らず、門を抜けるとすぐに左に折れて直接特別病棟に入る。エレベーターを使って三階まで昇り、出ようとすると止められて、扉が閉まってまた二階へと降りる。そこで扉が開いてもまた出ず、そこからまた四階へと昇る。そこでようやく出る。幻惑領域の迷路のルートは毎日変更しているというが、こういう回りくどく面倒な能力は桐生の得意とするところではない。戦闘に使われれば猛獣よりも手強いはずと感心していると、沢村が長い廊下の先の病室を指さして、


「あそこだ」と言う。



続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ