安藤士郎の場合 33
第十八条
障害物からちらりと顔を出して周囲を伺う橋場。
長い髪が地面に付きそうだ。
地面にスカートがついてしまうことはもう諦めた。
スカートの裾どころかスリップや一部の脚の素肌も地面のホコリにまみれている。
「何故トドメを刺しに来ないんだ?」
「もしかして相手を一方的に変身させることは出来るし、「見るだけ」というお手軽さから複数を相手にすることも可能だけど、決め手に欠けるのかもしれません…わ」
抵抗を試みているが、まだお嬢さま言葉が治り切らない。
「絶対的だと思うがな」
「あくまで推測ですが、こちらが複数人だというのを知らなかったのかもしれませんわね」
「だとしてもあっちが有利だろうが。大体あの一対多前提の張り紙は?」
「メタモルファイトへの知識が足りずに偶然そうなっただけかも。…やっと口調が治りました」
心なしか仕草も治った様に見えるが、外見は楚々としたお嬢さまのままである。まあ、お互い様なんだが。
「あちらに決め手が無いのは分かったが、このままじゃじり貧だ。…試す!」
橋場はぐっと目を閉じて力を込める。
全身が一気に変化し、男に戻った。
「おお」
ギシギシ動かして全身を確かめる橋場。
「ふん…どうやら遠隔攻撃とやらは継続力は無いらしいな」
だが、次の瞬間だった。
(続く)