安藤士郎の場合 30
「ちょっと待った!」
お嬢様に成り果てている斎賀が大きな声を出した。美しい。
「廃工場を舞台に選んで、相手が入口から入ってくるのが分かったとして…一人は仕留めたけど、無事なもう一人と物陰に隠れた…」
「で?」
「相手を見るだけで変身させられるファイターがその場合どう動くと思いますか?」
「そりゃお前…ポジション変えて見える位置に移動するだろ」
「…橋場さん?」
「うわああああっ!」
橋場の全身をいつもの違和感が襲った。
背中の一点が熱くなり、そこから広がるように感覚が全身を撫でて行く。
ずざざっ!と髪が頭皮から吹き出し、都合よく手入れが行き届いた状態に整って流れ落ちる。
むくっ!むくむくっ!と胸が膨らみ始めている橋場。
「畜生…俺も…」
はっとして二階方向を見上げた。
「あ、あいつ…」
黒ずくめにサングラスの男の顔がある。
「橋場さん見ちゃ駄目っ!!」
慌てて視線を切る。
だが手遅れだった。
「きゃあああああっ!」
ぶわり!と空中を舞う優雅なスカート。
下半身が一気に涼しくなり、乳房が拘束具で締め付けられる。
胴回りを柔らかくてすべすべする官能的な女性ものの下着の感触が包み込んだ。のみならず上半身全体を同じような感触のブラウスが包み込む。
抵抗する間もなく全身「お嬢さま学校の生徒」になってしまう橋場。
(続く)