安藤士郎の場合 29
第十六節
「おい!一体どうなってるんだ!」
「分かりません!」
今の斎賀は小憎らしい男子高校生ではなく、清楚可憐を得に描いたようなお嬢さまぶりである。
脚を揃えて地面に接地しようとはするが、どうしてもスカートが乱れてしまう。
スカートの一部は埃っぽい地面に接して汚れていた。全く運動に向かないスタイルだ。
「まさか…遠隔攻撃!?」
難しい顔をして考えている“お嬢さま”。何だかいい匂いがする。
「何だって!?」
「推測ですけど…こりゃとんでもない特殊系ですよ。多分」
「遠隔攻撃ってまさか」
「…」
斎賀は自らの変わり果てた身体を確かめる様に白魚の様な指で軽くなでた。
純白のブラウスと、スカートの下の裏地とスリップがしゅるしゅると衣擦れの音をさせる。
「間違いありません。どんな形であれ、これはメタモル能力を遠隔攻撃してます」
「相手はこっちに触る必要が無いってのか!?」
「ええ。推測ですけど、恐らくメタモルファイター同士なら見るだけで攻撃できるんじゃないかと」
「そんなのありかよ!」
「道理で入口の張り紙で試合開始の同意を取った訳だ…」
「どういうことだ?」
「徹頭徹尾近づく気が無いんです。入るからには同意しろって文句が書かれてたからここにいる限り相手のフィールドです」
「ヤバいぞ!ヤバすぎる!」
「しかも細かい終了条件を打ち合わせられないから…久しぶりの『相手の精神を折る』決着にならざるをえない…」
「またかよ…俺はそれで負けたことはねえが、あれって結構コタエるんだろ?」
「それでメタモルファイトのトレンドは「条件合意決着」になって来てるのか…」
「感心してる場合か!」
(続く)