安藤士郎の場合 26
第十三節
赤黒く錆びついた壁に、真新しい紙に汚い字が殴り書きされてセロテープで留められている。
『ここから先に入るメタモルファイターは、
安藤士郎との対戦を了承したものとする』
「…」
「…」
「…何だよこれ」
「書いてある通りでしょ」
「目一杯『メタモルファイター』書きやがって…バレたらどうすんだ」
「ですね」
「で、どうすんだ?」
「ボクらも“貴い犠牲”を払ってお互いに練習してきました。精神を一点集中する戦い方に関しては一日の長があるでしょう」
「かもな」
三人で飛田にレクチャーされた戦いをかなりやったのである。
お蔭で何もしてなくてもブラジャーの感触が少し残る程度の後遺症が出ているが、間違いなくメタモルファイトの強さはアップしている。
しかも、反射神経は等しく要求されるがどちらかというと体力よりも知力や判断力で勝負が付く。もっと言えば総合的な戦術・戦略レベルのステージすら存在している。そこまでフィールドを広げれば斎賀はかなりの強者だった。
今のところ三人の中では最も勝率がいい。
「だから簡単には負けません」
「…そういうことにしとこう」
「それに」
「…それに何だ」
「仲間を助けるって大義もあるしね」
一歩踏み出した。
(続く)