安藤士郎の場合 19
第七節
「…真面目な話いいですか?」
「あたしずっと真面目なんだけど」
いちいち突っ込まないことにした。
「ウーさんって、一般人相手でも触れば反射的に発動するんですか?」
「どゆこと?」
「メタモルファイター同士なら合意があれば問題ないんですけど、一般人相手だとその相手が敵意があって傷つけようとしてないと『自衛手段』にならないから発動しないと思うんですが」
「ああ、そゆことね」
「どうなんです?」
「ん―、多分一般人相手にはあんたがたと同じ発動条件だと思う。始まってもいないのに触れば相打ちになっちゃうのはファイター相手の時だけだね」
「なるほど…」
考え込む斎賀。
「どうする?サービスしとくけど」
「何がだよ?」
「はぁ?だから“チャイナさん”にしてやるって」
「いらねーし」
「…あの恰好は繁華街には向きませんよ。あのまま電車に乗るんですか?」
「コスプレってことにすればいいじゃん。この間ウチに来た小太りの男の子なんて喜んでそのまま帰ったけどね」
顔を見合わせる橋場と斎賀。
「…水木だ」
「そーそー!そういう名前だったわ」
「確かに連絡先は教えたけど…本当に行ってたんですね」
「うん。一日そのままタダでバイトさせて一回五千円だっつったら喜んで払ったけど」
顔が引きつっている斎賀。
「お金取ったんだ…」
「しかもタダ働きって…よくそんな条件飲んだな」
「つーかあっちから頼んできたよ。ウェイトレスの制服なんだったらこのまま働かせてくれっ!って」
いかにもありそうな話だ。
(続く)