安藤士郎の場合 11
第三節
「ごめんごめん。そんなに怒んないでよ」
目の前で妙におばさん臭い喋り方をする制服姿の女子高生が恐縮…していない。
「…でも面白がってたでしょ」
「そんなことは…ちょっとあるかな」
腕組みをしてぴくぴくと青筋を立てている橋場。
まだ足元にはスリットもまぶしいチャイナドレスをめくり上げられた感触が残っている。
ここは近所のファーストフード店である。
目の前の女子高生…は実は女子高生ではなくて、都内で中華料理屋を経営する妙齢の美女…ということにしておく…たる「呉 福妹」(うー・ふーめい)である。ちなみに生まれつきの女性だ。
「喜んでくれると思ったんだけどなー」
「若作りやめろよ。気色悪い」
「…口の悪い子だねえ。今度は背中丸出しのチャイナでも味わってみる?」
立ち上がり掛ける女子高生…中身は大人の女性。
「まあまあ落ち着いて」
「ふんだ。あたしがおごるなんて滅多にないんだからね」
「大人の自営業オーナーじゃないですか。頼みますよ」
斎賀がメガネをくいっとする。
「いつまでそのカッコしてるんだよ」
「…渋谷だしね。しばらくはこのままでいいかな。いいよねケンちゃん?」
「…どうぞ」
(続く)