安藤士郎の場合 03
明確な返事は無かったが意図は伝わったらしい。
「こい!」
だが、次の瞬間には金髪マッチョの目の前に安藤の顔があった。
一瞬何が起こったか分からなかった。
「うわああああああっ!」
咄嗟に左ジャブを突き出す。
が、それも空を切った。
「こっちこっち」
背後から安藤の声がする。
「見立て通りだ。良く似合ってるよ」
「テメエ!」
振り返ると同時に何かがぶわりと空気をとらえ、金髪マッチョの全身を恐ろしいほどの違和感が突き抜けた。
「…!?!」
何だ!?何かおかしい…。
「ほら、そんなカッコしちゃ駄目だよ」
声が目の前からする。
「きゃああっ!」
思わず飛びすさる金髪マッチョ。
咄嗟に口を衝いて出た嬌声。
ぶわりとむき出しになって空気にさらされている両脚の違和感がやっと実感された。
「な、何だこりゃああああっ!」
視界を下方向に向けた金髪マッチョの目に飛び込んで来たのは、柔らかな寒色系の生地で表面が覆われた長い長いスカートだった。
そして、その自らの声が妙に甲高いことの違和感が同時に襲い来る。
もう訳が分からない。頭がおかしくなりそうだった。
脚全体を襲う何とも頼りなく寂しく、そして落ち着かない感触…こ、これが…これがスカート…なのか…。
しっかり服を着ているのに着ていないみたいな奇妙奇天烈な感触。それでいて足首から先はしっかりと靴下を履き、靴も履いている。
(続く)