飛田俊雄の場合 02
第二節
そのドアから出てきたのは、紺色にピンストライプのスカートスーツ、紫色のスカーフに黒ストッキングの凛々しい制服に身を包んだCA三人組であった。
「…そういうことかよ」
「あんまりジロジロ見ちゃ駄目ですよ!失礼にあたりますから」
「うるせーよ」
すらりと背が高いところに持ってきてとても姿勢が良く、更に拒食症を心配したくなるほどスマートな美女軍団がカートを転がしながら颯爽と移動していく。
なるほどこれは「絵になる」構図だった。
「はあ…綺麗ですねえ」
「制服に騙されてるんだよ」
「でも、憧れませんか?」
「…美人だとは思うがそれ以上は特になあ…俺、制服マニアじゃねーし」
「ちなみに地上勤務のCAさんはグランドホステスって言うんですよ。グランドホステスさんはパンツルックであることも多いですけど、スカートも結構いらっしゃいます。この基準は良く分からないですね」
「…詳しいな」
「ちょっと調べました」
「彼女には知られない様にしとけよ。引かれるぞ」
「出来た時には考えます」
遥か遠くに小さくなっていくCA集団。
後ろから見ると、そのタイトスカートで形が強調されたお尻と黒ストッキングで浮き上がるふくらはぎの形状が何ともいやらしい。
ここまで知的で凛々しい制服でありながら、それ故なのか何とも複雑なものを喚起させる『制服』である。
「ちょっと前に話題になったCMがあるんですけどね」
「…どんな」
橋場は余り興味が無かったが一応受けてやる。
「大勢のCAさんが一斉にダンスする…ってだけなんですけど、当然本職はお忙しいしダンスの専門家でもないので、一般からも募集したダンサーの女性の方にコスプレしてもらって撮影したんですよ」
「…よく知ってるなそんなの」
「ところが、アリも通さないほど厳重に制服を管理していたのに撮影終了後に三着ほど行方不明になったそうなんです」
「…持って帰ったのがいるってか」
「ええ。少なくとも一着はヤフオクに出品されているのが確認されたそうですよ」
「変態どもが…」
「でも、持ち出したのって女性ですからね」
「…」
「ま、それくらい老若男女に人気がある『制服』ってことですよ」
「ついていけねえや。あのCAだってメタモルファイトの犠牲者の男かもしれねえじゃねえか」
「何を夢の無いことを言ってんですか!」
「それにしても遅いですね」
「…誰を待ってんだよ」
「え?武林さんですけど」
「またあいつ呼んだのか!」
「ええ。空港巡りって楽しいんですよ。しかもそれでいて本当に旅行する時って案外時間の余裕が無いから、「わざわざ遊びに来る」のが正解だと思ってます」
「やっと見つけたぞ」
「あ、武林さんいらっしゃい」
「なんだ橋場も一緒か」
「こっちのセリフだよ」
その時だった。
「ちょっといいかな?」
橋場英男、斎賀健二、武林光の三人が振り返ると、そこにはパイロットの制服に身を包んだロマンスグレーが立っていた。
「あっ!もしかして機長さんですか?」
「いかにも」
斎賀が高校生にもなって憧れの目で目の前の男性を見上げる。かなり背が高い。
「先に名乗らせてもらうよ。私は飛田俊夫。飛行機乗りには悪くない苗字だと子供の頃から言われてた」
「あはは!そうですね!」キラキラ。
「…で、俺たちに何か?」
相変わらず用心深い橋場。
「うん。ちと久しぶりにやりたいんだよ。メタモル・ファイトをね」
(続き)