飛田俊雄の場合 01
第一章 飛田俊雄の場合
第一節
「行っちゃったなあ…」
ニコニコ顔の斎賀が言う。
「…」
「おや?どうしました橋場さん」
「何で俺までお前の従姉妹の姉ちゃんの見送りに付きあわにゃならんのだ」
「でも、面白いでしょ?どうせヒマなんだし」
橋場は羽田空港に付き合わされていた。
山手線からモノレールに乗り換え、空港の中ですら長距離を移動する。
先日引っ越してきた時にも乗ったが、あの時は余裕が無かった。
「特に何も無くても空港って意外に退屈しないんですよ。都心からこれくらいの距離のアトラクションなんて他にも幾らでもあるくらい身近だしね」
「…まあな」
「約束通り一つおごりますよ。何にします?お土産」
「余り良く知らんのだが」
「適当でいいんですよ。結構いけますよ『東京ばなな』。『ごまたまご』も見逃せません」
「どんだけ空港マニアなんだよ」
「遠くに住んでる親戚が多いんで、東京案内がてら送っていくことが多くてですね」
「ふーん」
「それに…」
「それに何だよ」
「目の保養になります」
「…お前もあれか?鉄道マニアの飛行機版みたいな奴か?とんだオタクだな」
「まさか!気合の入った航空ファンなんてとても無理ですよ僕程度じゃ」
「オタクってみんなそういう風に言うよな」
「来ましたよ!」
遠慮がちに目で方向を指示する斎賀。
橋場も仕方なくそちらの方を観る。
すると、明らかに関係者専用のドアらしきものが開いた。あんなところにドアがあったとは…というほど目立たない。
「もしかしてあれか?」
「来ます!静かに!」
冷静な斎賀がここまで大騒ぎするとは意外だった。
ほどなくしてそのドアから人が三人ほど出てきた。
そして、斎賀の興奮の理由を思い知った。
(続く)