小柴弘樹の場合 11
第五節
「精神に異常をきたしたと判定されたってことか」
「そういうことだ」
手元の資料をめくる小柴。
「彼女は最初に発見された時から一貫してこう主張してる。『自分はろき・さとしだ』と」
「誰だそいつは?」
「札付きのロリコン野郎だよ」
「…」
「ついでにこうも言ってる。『突然やってきたどこかの女子高生に女子高生にされた』と」
「そりゃ病院送りになるわな」
「部屋で発見された制服のものがそうらしい。彼…じゃなくて彼女は合鍵というより鍵そのものを持っていたと考えられる」
「まさか本当に本人だと思ってるのか?」
「同じ日に炉木根は煙の様に消えて一切の痕跡が無い。彼女自身以外は」
「こんな与太話を信じるのか?」
「まさか。非科学的だ」
「だよな」
「人間が…男が女に性転換する場合、マンガやアニメでもない限りはホルモン投与や外科手術に頼るほかは無い。今のところは」
「今のところ…ねえ」
「病院での身体検査では完全に女性の肉体。乳房や膣はもちろん、子宮も存在。月経も異常なし。完全に女性だ。今のところ人工的に妊娠可能な性転換を行う手段は無い」
「だったら問題ないだろ」
「この一件だけだったらな」
(続く)