小柴弘樹の場合 04
「ふん…それで?」
「もう一つ興味深い事実がある」
「まだあんのか」
「彼女の所持品だ」
「金でも盗んでたか」
「金どころか、この日無断逃亡したゲイバーの私室から行方不明になったニューハーフの私物そのまんまが出てきた。もっとも現金二百万円は煙の様に消えてたらしいが」
「…」
「そしてもう一つド級のものがある」
「何だよ」
「セーラー服だ」
「…は?」
手元の資料をめくる小柴。
「聞き込み調査によって判明したんだが、この日セーラー服姿のこの女性が買い物に来て、服を一式買っていったと証言してくれたブティックの店員がいた」
「…着替えて脱いだってことか」
「そして持ち歩いていた」
「しかし、新宿歌舞伎町でセーラー服の女がそれほど珍しいとも思えんが?」
「このセーラー服も分析した」
「どんだけヒマなんだよ」
「ウチはそういう部署なんだよ」
「けど、そんな重要案件かこれ?事件性がゼロだぞ」
「そうでもない。話はまだ途中だ」
「…はあ」
「都内の某公立高校のものとほぼ同一であると判明した。まあ、とは言ってもかなり余計に作られていて足取りは追えなかった」
「今時そんな辿り方なんぞ出来るかよ。ましてやセーラー服なんぞ、女装マニアだって今じゃクリック一つで合法的に買ってるぞ」
「そうなんだよ。卸問屋でも同じことを言われた。一般販売では結構な数の男性が買っていくってね」
「やっぱりか。そういう時用途は聞くのか?」
「それほど追求はせんらしい。金を出して買ってくれるならお客だからな。まあ、余興とか忘年会の出し物とか…そんな感じらしい」
「だろうな」
「といっても、忘年会なら東急ハンズのぺらっぺらな奴で構わんはずだ。わざわざ数年は着ることを前提に頑丈に作られている『本物』の制服を数万円で購入する必要はない」
「はは…詳しいな」
「茶化すなって。どうしても本格制服が用意したいならレンタルショップもある。まあそれはどうでもいい。大事なのは全く同じ日に起きた二軒の行方不明事件の両方に『セーラー服』が深く関わっているってことだ」
(続く)