小柴弘樹の場合 03
第二節
「ふん…」
ぽい、と机の上にカラー写真を放る大迫。
「こんな小さな写真じゃなんともな。大体風俗のプロフィール写真なんぞメイクしまくりの修正しまくりじゃねえか。みんな同じ顔だよ」
「おいおいそれでもデカか?そこを長年のカンで嗅ぎ取ってくれよ」
「長年ってお前と同じ年だぞ」
「そういうだろうと思ってこの二枚を『顔認証ソフト』で分析してみた」
「お、科学屋っぽくなってきたじゃねえか」
「貴重な税金で食わせてもらってるからな。結果がこれだ」
良く分からない数字だらけの分析表が出て来る。
「…つまり?」
「極めて似ているが同一人物ではない…というのが結論だ」
「おいおい、それがオチかよ」
「ただ、ここで終わらないのが警視庁本部の意地だ」
「さっきは付属機関だって言ってたじゃねえか」
「彼女…まあ、ニューハーフなんで彼女でいいだろ…の地元の記録を見てみた」
「本名が分かってるのか?」
「新宿署に頼んでゲイバーを捜査してもらってな」
「おいおい、個人情報はどうなるんだよ」
「こちとら国家権力だ。まあ冗談はさておき、本名から探ると実家が判明した。予想通り高校で家を飛び出してそれっきりだ」
「もうこの手の話は千回は聞いたぜ」
「ただ、地元には友人や友人グループがいる。そこにも聞き込みをしたが、新宿で働いている時にはしょっちゅうSNSでやりとりをしていたのに、この日の夕方を最後に連絡が途絶えてる」
「…」
考え込んでいる大迫。
「何かの事故に巻き込まれたか?」
「彼女本人はともかく、遺留品は事故に巻き込まれたみたいだな」
「どういうことだ?」
「新宿で轢かれて死亡した謎の女性が持っていた携帯電話は…件のニューハーフのものと一致した」
「?…この女がニューハーフから私物を強奪した?」
「見た目も何もかもそっくり…唯一性別のみが違う人物がな」
「ちょっと待て。轢かれたのは女なんだよな?」
「間違いない。純然たる事故で事件性が無いから司法解剖も行われてないが、写真が残ってる。間違いなく生粋の女だ」
「…最近のニューハーフは科学技術が進んでるのか見た目じゃ全く分からんぞ。本当にオンナだったのか?」
「そこは間違いないらしい。流石にそこをいい加減に書く訳にはいかんから…場所柄からしても男女の区別が曖昧なのは前提だからしっかり調べてるそうだ」
(続く)