小柴弘樹の場合 01
第三章 小柴弘樹の場合
第一節
小柴弘樹(こしば・ひろき 二十四歳)は首をひねっていた。
ここは科学警察研究所(科警研)。警視庁の付属機関の一つとして設置された中央官庁である。
よく似た名前の科学捜査研究所(科捜研)があるが、こちらは各都道府県警察本部刑事部の付属機関である。
科警研においてはDNA検査キットなどの開発やプロファイリングについての研究なども行われている。
小柴はその中でも「法科学第四部」に所属する研究員である。
四部は犯罪捜査に必須の生物学的な知識や、現場に残された遺留物などといった分野ではなく、犯罪の捜査に関連する「心理学及び精神医学」の研究や実験に関する部署である。
「…何だこりゃ」
小さくつぶやいた。
子供の頃から独り言が多いと言われていたが今も治っていない。
「よお、どうした」
目の前に荷物を置きながら座り込む男がいる。
大迫淳一郎。同じ年に警視庁入りした同級生である。
こちらは交番勤務から刑務所の官吏を経て刑事となっている。
二人は部署は全く違うのに何故か気が合った。
「何か悩み事か?」
「…また何か物件持ち込んだんか?」
「ああ。ホシの遺留物をな。ついでだからお前のアホ面見に寄ってやった。感謝しろ」
「ふん…デカってのもヒマらしいな」
「やかましい。で?どうなんだよ。『自動犯人検知機』とか出来たのか?」
「…お前は科警研を何だと思ってんだ。こちとら未来から来たネコ型ロボットじゃねえんだ」
偉そうに座り込み、どこから持ってきたのかコーヒーなんぞ啜っている大迫。
「ホシも追いかけねえ警官がいるってのが未だに解せなくてな」
「だから…俺は元から研究員で…」
手で制する大迫。
「悪かったよ。で?何だ?現場のデカとしての意見が欲しければ教えてやらんでもない。どうだ?警視庁勤めのエリートとしては?」
「ウチは付属機関だっつーとんだ。まあ…一応あることはあるが…」
「何だよ?」
「事件とも言えない。傾向というか兆候みたいなもんだ。現場の刑事には馬鹿馬鹿しいと思えるかもしれん」
(続く)