小林みのりの場合 13
「なら死刑だったら?」
「…そりゃ…死刑はやだから男になるかも」
「女性にとったって、男になるのは嫌でしょ?つまりその法則性は男にも当てはまると」
「当たり前じゃん。何がいいたい訳よ?」
「要するに、まるで『刑罰』みたいに男性から女性への性転換を使うことの倫理的な言い訳みたいなことだよ」
「ふーん…良く分からんけどねえ。いいじゃん別に。女レイプした罰で女にされるなんて辻褄合ってると思うけどね」
「そうだね。そしてここでポイントなのが、『前の人間ではなくなる』ってこと。ここが最も大事なんだ」
「それってさっきも言ったよね?」
「物凄く大事なことだよ。アメリカなんかじゃ大金持ちが結構悪いことをしても超優秀な魔法使いみたいな弁護士雇ってどうにか罪を逃れちゃう。逃れなくても軽減してもらったりする」
「ふーん」
「要は犯罪者であっても服役したり罪を償ったりすれば社会復帰出来ちゃうってこと。でもこの方法だとその『社会復帰』こそが最も絶望的になるわけだ」
「やっぱりさっきと同じだね」
「とにかく瑛子さんには、悪い相手を完全にして最終的な形で社会的に抹殺しえる能力が備わってる…と思うよ」
「そんなもんかなあ」
「もしかして、ムサいおっさんだったものが可愛い女の子になって人生ハッピーになるとか思ってる?」
「そこまでは思わないけど…」
「仮に二三日で元に戻れるんならそういうアトラクションは悪くないとは思うよ。でも一生となるとそういう訳にはいかない。とてもじゃないけどオシャレやお化粧を楽しみ、男性と素敵な時間を作ることをエンジョイ出来るとは思えないね」
「ま、いいわ。とにかくあのドスケベロリコン先公は退治出来たってことだよね」
「その通り。…日々真面目に働いてくれているお巡りさんには悪いけど、警察に通報したりするよりよっぽど確実だよ」
「害虫駆除ってわけだ」
「ヒドい言い草だけど…まあそうかな。所詮人間ってムラ社会のしがらみから逃れられないからさ」
「でも、本当に先生って犯罪犯しても捕まらないみたいなことがありえんの?」
「事実あったじゃない」
「にしてもさあ」
「それこそ面の皮の厚い人って『警察に通報』なんて無粋なことをした人間を『コミュニティの和を乱した』ってことで逆恨みとか普通にするから」
「死ねばいいのに」
「でも、瑛子さんは違うじゃない」
「?」
「今回だってそう。外部からやってきて手を下して華麗に去っていく」
「あはは…」
「ムラの内側の人間からしてみれば許せないことでも、ムラの外の人間なら『仕方がない』ってことで許しちゃうんだよ。そういうもんじゃん。この国が外圧でしか変われないのもそんな気質が影響してる」
少し黙って早足になり、振り返って言う瑛子。
「まー、たーくんの言いたいことは分かったけどさ」
自信を深めている群尾の表情。
「これからどうやって『倒すべき』ロリコン教師の情報を得るわけよ?」
肩をすくめる群尾。
「そこが問題だ」
(続く)