小林みのりの場合 10
第十三節
「警察に捕まったりしないってこと?」
「百パーセント捕まらない。少なくとも能力に関してはね」
「百パーセントなんだ」
「その変身後を殴ってたりしたら駄目だよ?それは傷害罪で別の犯罪を構成する。それに警察が逮捕そのものが目的で微罪逮捕やら別件逮捕を使ったりしたらまた別だけど」
「また話が難しくなってきたな…」
「とにかく!これを持って刑事事件にされるなんて全くありえない」
「ふーん」
「だって考えてもみてよ。髪をふり乱した若い女性がさ、それこそ瑛子さんを指さして『こいつによって私は男から女に性転換させられた!逮捕してくれ!』って言ったら、瑛子さんがお巡りさんならどう思う?」
「頭がおかしいと思うね」
「でしょ?」
「…そっか」
「瑛子さんの能力は絶対に罪に問われない。刑法には『超能力で相手の男性を女性に性転換してはならない』とは書いてないから」
「…でも、そこは何とでもなるんじゃないの?」
「超能力による性転換を、「傷害」に広く捉えることが出来れば或いは「傷害罪」を援用出来るかもしれないけど、それには裁判所がこの能力の存在を公式に認めないといけない。まあ、ありえないね」
「裁判官を女にしても?」
「割と真面目な話だけど、一人や二人じゃまず判決が覆ることなんて無い。仮に現象そのものが間違いなく起こると認められたとしても遡ってこの判決に影響を及ぼすことなんて無いだろうね」
「分からんけど、要するに大丈夫ってことだ」
「そうそう」
「ま、あたしはあの野郎があの可愛いみのりちゃん相手にこれ以上あれこれ出来ないってだけで満足だよ」
「…瑛子さんさあ」
「おう」
「これって案外面白いかもね」
「ロリコンをぶっ倒すのがってこと?」
「別にロリコンに限った話じゃないけどさ」
「つまりどういうこと?」
「社会には世間のしがらみを悪用して裁かれずにのさばってる悪が大勢いる」
「…また変なこと言い出したね」
「瑛子さんは女性へのレイプ犯をどう思う?」
「死刑」
「はやっ!」
「じゃなきゃちんこ切り落としの刑かな」
「中国の歴史上の人物で『史記』ってのを書いた司馬遷はその刑をくらったね。「宮刑」(きゅうけい)って言うんだけど」
「え?ちんこ切り落とされたの?」
(続く)