小林みのりの場合 06
第十節
「い、いてえええええええ!!」
大声を上げる炉木。荷物の中で暴れている。
「一撃で殺さねえ様に目一杯手加減したんだぞボケが。いいから立てよ」
何やらわめきながらマットやら小道具の残骸のなかでのたうち続けるので、面倒臭くなった瑛子がのしのし近寄る。
胸倉を掴んで引きずり起こした。
「はぁ?内申書がどうこう言ってたなお前?」
侮蔑に歪んだ瑛子の顔が迫ってくる。
「や!やめろ!やめろぉ!こんなことしてタダで済むと思ってんのか!」
「思ってるよ!」
荷物の中に放り込む。
派手に音を立てて色んなものが壊れる。
「ぎゃあああああ~っ!」
参ったなあ、という風情で頭をぽりぽり掻く瑛子。
「…張り合いねえのは分かってたけど…ここまでかよ。メスガキみてーにぴーぴーわめきやがってみっともねえ…」
面倒くさそうにもう一度がれきの中に踏み込んで引きずり起こす。
「何でも世の中テメエの思い通りになると思うなよクズが…」
「わ!分かった!分かったよ!分かった!」
「…何が分かったんだ?」
「キミを推薦しとくよ!どこがいい?この辺の区内なら公立でも私立でもよりどりみどりだ」
「テメエ何の話をしてやがる」
「大学だよ大学!高校生だよね?受験生だよね?」
「だったら何だ」
「だから!キミを推薦しといてあげるってば!行きたいでしょ?大学」
「興味ねえよ」
「はぁ?高卒で世の中に出る積り?」
「テメエの話に興味がねえっつってんだ!」
「んな訳ないよね?そうだ!お金無いなら奨学金も付けてあげるよ。パパから先生にお願いしておくからさあ!」
改めて瑛子の怒りの血管が何本もブチ切れた。
「…その『先生』ってのは噂の議員先生って奴か?」
「そうだよ?へへへ…」
「テメエ…マジで救いようがねえや。いっそ死ね」
「よせ!やめろ!もうしない!金輪際小さな女の子には手を出さないから!」
「信用するとでも思ってんのか?おめでてえな」
「どうする気だよ!殺すのか!?日本の警察舐めるなよ!こんな大立ち回りやらかして証拠残りまくりだぞ!返り血浴びた制服で家まで帰る気か?あぁ?」
「…日本の警察ってそこまで捜査してくれるわけ?あたしらが何頼んでもなーんにもしてくれなかったんだけど?」
「へ…素人が…。関係者の捜査にだけは熱心なのが警察ってことも知らんのか」
「…マジで全身の骨を叩き折ってコンニャクみたいにして殺してやりてえよ。けど、それじゃあ解決しねえそうだからよ。これで勘弁してやらあ」
(続く)