小林みのりの場合 04
第六節
家族と偽って侵入した校内で電話をしている瑛子。
この頃の学校は部外者の侵入に神経をとがらせている。なるほど群尾ではとても入れてもらえないだろう。瑛子ですらかなり疑われたほどだ。
「あ、たーくん」
『感度良好。どーぞ』
「むっちゃ可愛い子だった」
『でしょ?で、何か言ってた?』
「遊ぼうって言ったら断られた。たーくんの予想ドンぴしゃ」
『そいつぁマズいね』
「やるよ?」
『…分かってると思うけど、普通にぶちのめしても駄目だからね』
「…わーってるよ…」
『不満そうだね』
「そんなクズ目の前にしてガマン出来るか分からない。つーか心配じゃないの?自分の彼女釣りの餌みたいに使ってさぁ…」
『他ならぬ瑛子さんだからね。少ししか心配してない』
「少しね」
『相手がイケメンだったら多少心配かも』
「顔基準だったらたーくん選ばないから」
『だったね』
「んで?どうすればいい?」
『出来たらしっかり会話まで確認したいけど…やるんなら一撃で決めないと色々面倒なことになる』
「何となく分かるよ」
『僕も一緒に行きたいんだけど、従兄弟ってだけじゃ入れてもらえないと思うから…瑛子さんに掛かってる。頼むよ』
「分かった。可愛い従姉妹のためだもんね」
『くれぐれも…ガマンしてね』
「自信ないけどね」
第七節
「やあいらっしゃい」
校舎の隅にある準備室の中は雑然としていた。
使い古しの体育マットが埃だらけで置かれている。
そこにその男は座っていた。
有名な男子テニスプレイヤーの様な背の高い美男子である。
ギリシャ彫刻の様な端正な顔立ちに優雅な雰囲気を漂わせている。
「ここに座って」
「はい先生」
おずおずと歩み寄るみのり。
こいつが担任の炉木根である。
「今日はどうだったかな?」
体育座りの両足を広げるようにして、そこに背中を向けて座らせる。
「…図工の時間が面白かったです」
「もっと面白いことしようか」
「先生やめて…くすぐったいから」
身体に手を伸ばして来るのを身を捩って嫌がるみのり。
「ふっふっふ…いいのかなぁ?そういう反抗的な態度で?」
「え…」
「ボクは何でも出来るんだよ?キミの従兄弟のお兄ちゃんも大好きなお姉ちゃんも内申書がボロボロになってどこにも進学できなくなるよ?それでもいいのかな~?」
「ない…しんしょ?」
「小学校にはまだ無いから知らなかったか。でも中学生になったんならそれくらいは大人の世界のルールとして知っておくべきだね」
「いいかい?こうして先生と会ってることは絶対に誰にも言っちゃ駄目だよ?」
「はい…」
消え入りそうな声である。
「誰にも言ってないね?」
頷く美少女。可愛い。
「一生の秘密だ。喋ったらキミのご両親も死ぬことになるよ?」
「そんな!」
「ボクは暴力団にも知り合いが多いんだ…分かったら逆らわない様に」
メキメキと音がする。
扉がゆっくりと開いた。
「っ!!」
「よお、お楽しみだな」
般若みたいな形相になった瑛子だった。
(続く)