小林みのりの場合 03
第四節
「だとしても許せねえ…つーかたーくんさあ」
「何?」
「すげー疑問なんだけど」
「何が?」
「よくモンスターペアレントとかゆーじゃん」
「そうだね」
「あいつらってこういう時なんで騒がないのよ?先公の口のきき方がなってねーとかショーも無いことは言うくせに、テメエのガキ手籠めにされてどうしてそういう時にモンスターにならんわけよ?あたしが親だったら普通にぶち殺すんだけど」
「ごもっとも。けど、世の中はそう上手くは出来てないんだよね」
「どーゆーことよ」
「モンスターペアレントに限らないけど、常にターゲットは自分よりも弱そうな相手だよ」
「ん?」
「モンスターペアレントが狙うのは気のよさそうな新人男性教師とか、女子大生に毛が生えたみたいなひよっこお嬢さま教師だよ。こういう相手なら自殺するまで追い込んだりするけど、学校に一人はいるようなヤクザみたいな暴力教師にはだんまりさ」
「けっ!」
「この場合も同じだろ。ロリコン教師自身はうらなりみたいなネクラだけど、そのバックにいるのは議員様に教育委員会だよ。下手すりゃ地域から抹殺される」
「下らねえよ」
「こいつも同じさ。日本はムラ社会だ。地域のしがらみも時には役に立つが、悪用しようと思えば何でもやり放題になる」
「…たーくん何を考えてんのよ?」
「瑛子さんの能力さ」
「あー、ヤローをスケにする力?」
「…クラシックな不良言葉って新鮮だなあ」
「あれがなんな訳よ」
「突破口になるかもしれない」
第五節
「えーと…とりあえず今日はお姉ちゃんと一緒に遊ばない?」
みのりの表情が曇った。
「あ…ごめんなさい」
何かを考えている風である。
「今日は大事な用があって」
「どんな用かな?」
慣れぬ笑顔で『いいお姉さん』を演じる瑛子。子供は嫌いではないが、接し慣れているとは言い難い。
「誰にも言うなって言われてるから…ごめんなさい」
「いーのいーの!とりあえずこのエーコお姉ちゃんを覚えといて。あ!そーだそーだ証拠写真がこれね」
二人並んだ写真を差し出す。
「タクヤお兄ちゃんでしょ?」
「ほんとだ!こんな綺麗な彼女がいて幸せね!」
「あ…ありがと」
余りにも滑らかに出て来る称賛に、軽く引く瑛子。この一族には『たらし』の家系でも混入してるのか知らん。
「じゃあさ…どこの教室かだけでも教えて」
とても困った表情になるみのり。可愛い。
「でも…」
こりゃあいかんわ。女の瑛子でもくらっと来るほど可愛い。同級生の男の子は放っておかないだろう。しかし、男性教師は駄目だ。許さん。
「…絶対に誰にも言わないでね」
「任せて」
(続く)