小林みのりの場合 01
第二章 小林みのり(こばやし・みのり)の場合
第一節
「おっはよーん!」
「…?」
沢尻瑛子の目の前の少女は怪訝な顔をした。
「あたしだよあたし!エーコだよ!」
「…すいません…どちらのえーこさんですか?」
消え入りそうな声だった。
あどけなさの残る少女だ。分類不可能な「女子中学生の制服」に身を包み、背中まである長い黒髪に大きな瞳。お人形さんみたいな可愛らしさとはこのことか。
「あれだ!従兄弟のたーくんいるでしょ?群尾卓也」
「あ!タクヤお兄ちゃんのお友達ですか!」
途端に目が輝き始める。
「お友達っつーかカノジョね」
「ええっ!そうなの!すごーい!」
影がある美少女だったのが嘘みたいにぴょんぴょん飛び跳ねてはしゃぎ始める。
「お、おう。この中学に従姉妹の可愛い子がいるからって教えて貰ってさ。写真みてたら挨拶したくなっちゃってねー」
「タクヤお兄ちゃん今どこです?」
「あー…今はなんだ…補習だ補習。赤点取ったらしくてさ」
「え?そうなんですか?結構頭いいって聞いてたけど」
「たまにはそういうこともあるんだよ」
「また遊びたい!たまにはメールしてって言って!」
第二節
「瑛子さんさあ」
瑛子と付き合っている群尾が言った。
「んー」
漫画を読みつつ、キャンディを頬張りながら適当に答える瑛子。ここは群尾の自室である。
ベッド脇で短いスカートのままだから相当リラックスしている。
「人助けしたいんだよね?」
「場合によるね」
お互いに明後日の方向を見ながらだが見事に会話が成立している。
「…小さな女の子を助ける時はどう?」
読んでいた漫画に指を突っ込んで身を乗り出して来る。
「どういうこと?」
「あくまで噂なんだけどね」
「あんだよ」
「えーとね…確か今年のお正月に集まったことがあったはず。その時の写真がこれね」
スマホをいじっている群尾。
何枚かある内のツーショットを呼び出した。
そこには弾けそうな笑顔の髪の長い美少女と同じフレームに納まっている群尾がいた。
「かっわいー子だね!」
「従姉妹のみのりちゃん」
「あんたって結構色々人付き合いあるんだ。引きこもりだと思ってた」
「失礼な」
そういうが口調は怒っていない。
「とにかく、親戚中でも際立った美少女でね。原宿歩いてたらスカウトされたなんて話もある」
「ふーん、あんたも可愛いと思ってんじゃないの?」
「そりゃ事実可愛いからね。でもまあ、従姉妹の子だからさ。いないけど妹みたいなもんだよ」
「付き合いたいとかは思わない訳だ」
「当たり前だよ。可愛いことは可愛いけど、誤解を恐れずに言えばペットのネコみたいな意味での可愛さだよ。恋愛対象として考えるなんてありえない。それに瑛子さんいるからさ」
「…お前不意打ちやめろ。…で?この子が何?」
深刻な表情になる群尾。
「担任の教師が問題でさ」
「…嫌な予感がしてきたぞ」
(続く)