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飛田俊雄の場合 15


第十六節


 扉を開けると一気に喧騒が広がった。

 空港内の一般ロビーに出た様だ。

 途端に顔を赤らめるCA斎賀。

「どうした?行くぞ!」

「…はい」

 扉をくぐってCA三人組はカートを引きずって歩き始める。

 ここはもしかして…さっき「本物」のCAさんが出るところを目撃して「目の保養」をしていたあの扉じゃないか!

 まさかすぐ後に自分自身が女性の客室乗務異ににされて同じ制服で出て来る羽目になろうとは…。

 CA斎賀は人が替わった様に無口になっている。

「どした?」

「…」

 何故か顔を赤くしている。

「お前…まさか恥ずかしいのか?」

 ゆっくり小さく頷いた。可愛い。

「だってその…みんなこっち見るから…」

 そう言われると、それとなく視線を感じる。

 それもスカートから出ている黒ストッキングの脚のあたりをちらちら見ている男が多いこと。

 …なるほどこれは何とも複雑だ。

「しゃきっと背筋伸ばせ!猫背のCAなんぞいねえぞ!」

 言われて胸を張るCA斎賀。

 すると前方に完全に憧れの瞳を向けている小学校就学前の幼女と、お兄さんなのか少し大きな男の子がいた。

 思わずドキっ!としてさっきまでは無かったブラジャーに包まれた乳房の奥の胸がきゅんとなる斎賀。

 嗚呼、違う…違うんだよボクたち…。今ここに颯爽さっそうと歩いてる『綺麗なお姉さん』は実は男子高校生なんだよ…。

 かくいう橋場も表情が硬くなった。

 こりゃあ…さながら羞恥プレイだ。たまらんな。ペナルティってのはこういうことか。

 あのパイロットのおっさんもやってくれる。

 自分よりも明らかに弱そうな高校生のガキを捕まえて女の客室乗務員にして衆人環視の中、注目されつつ空港内を横断させるとは…。

「きゃっ!」

 幼女が転んでしまった。



第十七節


「あら、大丈夫?」

 三人の中で一番最初に声を掛けたのはCA光だった。

「はい…」

 真っ赤になってもじもじしている女の子。

 それをニッコリ笑顔で応対している。…まるで本物のCAさんじゃないか。

 少し離れたところの二人はドン引き仕掛けたが、すぐに歩み寄る。

「おお!あ…りがとうございます!」

 お兄さんであろう男の子がガチガチになって直立不動で言った。

「うん、ありがと」

 どうしてこんな天使みたいな笑みが自然と出るのか…と呆れるほどコントロールが効いているらしい光。

 ちょっと悪戯いたずら心が芽生えてきた橋場が、反対側に回る。

「えらいねー。お兄ちゃんなんだー」

 何とも甘ったるく高い声でかがみこむ。

 ここからだと良く分かるが、光の野郎のスカートがかがみこんでいることでずり上がり、膝から下のストッキングに包まれた脚がモロに男の子の視界に飛び込んでくる形になっている。

「え…あ…あの…」

「頑張ってねーおにいちゃん」

 何故かワルノリで斎賀まで取り囲みに参加してくる。

「あ…ああ…」

 可哀想に全身がバキバキに緊張している男の子。

 本人である橋場にすら、「大人の女性の色香」がむんむんと漂うのが分かる。この年代の男の子にはばっちりお化粧した年頃のお姉さんがこんなに近寄ってくるのはある意味恐怖だ。しかも三方から取り囲まれるというのは…。

 何故か男の子に感情移入してしまって、被虐的な快楽が湧きあがってきそうだった。


「あのちょっと…」

 若い女性の声が掛かった。



(続く)


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