飛田俊雄の場合 14
第十五節
「部外者から見ても客室乗務員さん…CAさんのハイライトって、高いヒールをカツカツ言追わせて抜群のスタイルでカートを引っ張りながら空港内を闊歩する瞬間ですよ」
「仕事をしろ仕事を」
「制服マジックってんですかね。海外ではそれほど地位の高い仕事でもないってのも面白いです」
「エアホステスってか」
「その通り!それは日本においても同じですよ」
「何でこんなにチヤホヤされてんだ?」
「まあ、英語は必須みたいなところがあるし、女性のコスプレって誤解を恐れずに言うとチアリーダーとかバニーガールとか…申し訳ないんですが、知性というよりはセクシーさが先に立つものが多いですからね」
「平たく言えば馬鹿っぽいってことか」
「そりゃ言い過ぎですよ…でもまあ、そういうことです」
「それはひどいわ」
「それに比べるとCAさんの制服って上品で知的で凛々しくて…女のエリート!って感じですもんね。男はもちろんのこと、女性でも憧れるのは分かりますよ」
「どうしてノッポばかりなんだ?モデル業でもあるまいし」
「簡単ですよ。高い棚に荷物を乗せるでしょ?純粋に職業上の理由です。差別じゃありません」
「それは分かった。なんでサービスなんだよ」
「…橋場さんって、メタモルファイトに勝った後ってどうしてます?」
「別に考えたことねえよ」
「でしょうね」
「何だそりゃ」
「言葉には出さないけど、メタモル能力でCA制服なんて言ったらある意味メタモルファイター界のエリートですもん。そりゃノブリス・オブリージュっていうか…責任があるじゃないですか」
「何言ってんだかサッパリわからん」
「要は、一応は男である以上おおっぴらには言いにくいだろうけど、憧れの制服着れて嬉しいだろ?って言ってるんですよ」
「俺は嬉しくないぞ」
「僕は嬉しいです。ハッキリ言って」
「遂に言いやがったなこの変態が」
「どうしてです?いいじゃないですか」
「俺たちゃ男だぞ!女装出来て嬉しいなんて終わってんぞ!」
ちっちっち、と指をふるCA美女となっている斎賀。
「だからそこは“仕方なく”ですよ。本音のところではどれだけ嬉しくても、『バトルに負けて着せられちゃってるんだから』という建前が立たないと」
「…もしかしてそれを立ててくれてるってか?」
「そういうことです。空港内を突っ切って移動せざるを得ない『解除条件』を提示したってことはどうなると思います?」
少し考えている女性の客室乗務員となってしまっている橋場。面影は全く無い。
「まさか…」
「そう。勝負に敗れたものは『空港内を闊歩する客室乗務員』を演じさせられることになる訳です」
「とんだドS野郎だ」
「そうですかね?僕はサービスだと思いますが」
「僕」という一人称が「大人の女性」から飛び出すのを見るのは複雑なものがある。
「何でだよ」
「恐らくあの方は割と簡単な解除条件を言い渡して決着にすることを繰り返してたはずですよ」
「だったらそれでいいだろうが」
「でも、それだと憧れの『スチュワーデス空港闊歩』が出来ないでしょ?敢えてやるとなると、『女体化してスチュワーデスコスプレをした上空港内を闊歩する願望のある変態』になっちゃう」
「…事実そうだろうが」
「だからやりたくてもやらずに変身解除しちゃう人が多かったんですよきっと」
「つまり?」
「つまり、相手の潜在的変身及び演技願望をくみ取って、『スチュワーデス空港闊歩』をせざるを得ない…解除条件を押し付けてくれたってわけです」
「考えすぎだ!」
「ま、それは人それぞれですけどね」
目の前に扉が見えてきた。
「ここを開けて通っていいって言ってました」
「だったな」
(続く)