飛田俊雄の場合 10
第十一節
「…もうあんた勝ちじゃね?」
「言ったろ?これは試合じゃない。レクチャーだ」
仕方なく構える橋場。今度は橋場がパンチを放つ番…なんだが、いつもにも増してアンバランスに胸が重い。服がパンパンに張りつめている。
巨乳ファンならたまらん服の張り方だよなあ…と客観的にアホなことを思っていた。
正直、乳首がこすれて痛くなるところだったのでブラは有り難い。
「さあ、打ってきたまえ」
橋場は頭が混乱していた。
性質の悪い害意こそないが、強さの底が見えないほど圧倒的に強い対戦相手だ。
相手が何をどうやってるのか分からない。
これまで性転換させられたことはあっても、メタモルファイトに負けたこと自体は実は無い橋場だった。
遂に負けることになるのか?
「おりゃあ!」
特に工夫の無い右手のストレートを放つ橋場。
「ブロックされ」たら意味が無い。しかし、さっきの試合を見る限りブロックされなくても結果は同じだった。
当てても駄目なのにブロックに向かって打っても意味があるのか?
そもそもどうしてこちらの攻撃は全く効かないんだ?
それに普通は全身を性転換させてから女装を始めるものなのに、俺の胸に限っては同時にやってる。そんなこと出来るのか?
勢いよく風を切るパンチ。
それが突然止まった。
沈黙。
離れたところでは可憐なスチュワーデス二人が巨乳青年を応援している。
「…?」
飛田が一瞬怪訝な顔をした瞬間だった。
再び拳を押し込む様にブロックの上から叩き込む形となった。
「うっ!」
勢いで少し後ずさりする飛田。
「…分かったぞ。あんたが何をしてたか」
「ほう」
「要するにイメージの問題だったんだ」
対峙している二人。
「いいよ。続けたまえ」
「これまでおれたちは確かに相手に接触して変身させるイメージばかりしてた。それはそれで間違いじゃないが、それよりももっと効果的なやりかたがある」
「斎賀」というネームプレートまで装着されたスチュワーデス…現CAが耳をそばだてている。
「それは部分的な意識の集中だ」
にやりとする飛田。
「相手の攻撃をブロックする際は、ブロックする部分に意識を集中して相手のメタモル能力を弾き返すか或いは防ぐ。俺たちはそういう意識をしてた。それはそれで間違ってないが、攻撃側が稚拙な場合しか防ぐことは出来ん」
「ほう」
「要するに相手と同じ場所に意識を集中するからブロックされたってことだ。ブロックされる場所は腕だったとしても、相手の髪の毛やら胸やらの『一部分』に意識を集中してそこだけを性転換させようとすれば、『何となくブロック』してる相手は一点突破される。それがあんたの秘密だ」
「ご名答だ。そこまで分かってるなら防ぐ方法も分かるな」
「予測だがね。相手が髪の毛を変えようとしてることが分かってるなら髪の毛に防御意識を集中すればいい」
「流石だ。その通り」
「しかし、全身のどこを狙われるかなんて分かったもんじゃない。ヤマカンが的中するならともかくな」
「全て分かったようだな」
「こちらの攻撃が効かなかったのも当たり前だ。こちらは部分意識なんてしたことが無い。だからブロックする場所にだけ意識を常に集中していればいい。ブロック出来なくても同じだ。物理的ブロックが出来なくても意識を集中してメタモル攻撃ブロックのイメージが出来てれば全く同じことだ」
「ふむ…」
攻撃姿勢を解いてポリポリと頭を掻いている飛田。
(続き)