飛田俊雄の場合 09
第九節
「時間が無いんだ。さっさと来たまえ。それとも試合放棄にするかね?」
「…行ってくる」
「橋場さん…」
「大丈夫。何とかするって」
目の前で対峙する橋場と飛田。
「悪いがキミたちは口ほども無いな」
「…何とでもいいなこの制服フェチが」
「これは失敬な。能力なんだから仕方がないだろう。キミだってそうだろ?」
「うるせえよ」
「余りにも張り合いが無いんでね。あるルールを提唱したい」
「…それが罠でないという保証は?」
ふう、と軽くため息をつく飛田。
「そんな必要はない。普通にやっても負ける要素が無いのにどうして策略を使う必要がある?」
「一応聞きたい。あんたは特殊系じゃないのか?」
「…そのことか。違うよ。そもそも特殊系はそんなに数は多くない。滅多に会えるもんじゃないのさ。提案いいかな?」
「言ってみろ」
「これからキミがテレホンパンチを見舞う」
テレホンパンチなら橋場でも知ってる。予備動作が大きくて、まるで打つ前に電話を掛けて相手に知らせるかのごとくなのでこう呼ばれる。
「それをブロックさせてもらう。それをめぐっての勝負だ」
「…そのブロックに秘密があると?」
「正確にはブロックそのものではないが…まあそういうことだ」
「ならこっちからも提案だ。先にあんたが攻撃してくれ。こっちがそちらの攻撃をブロックする」
「…言ってる意味が分かってるかな?」
「当然だ。逃げるのか?」
橋場の目をじっと見てくる飛田。
「乗ろう。では行くぞ」
両手を上げて何となくファイティングポーズめいたものを取る飛田。こうして見るととても強そうには見えない。ただのおっさんが痛々しいことに、年甲斐もなくケンカを目前としているという図だ。
「こい!」
両手でブロック姿勢を取る橋場。
第十節
「あれはどういうことなのかしら」
「アキラさん…かなり強くコントロールされてますね。完全に女言葉になってますよ」
「…そうみたいね。悔しいけど解けないわ」
お揃いの制服に身を包んだスマートな美女スチュワーデス二人が並んで立っているという図だった。
客観的には何とも麗しいが、中身は男子高校生であるというのが若干倒錯的である。
「普通の攻防ではなくて、分かりやすくした上でヒントを与えてくれる気なんでしょうね」
「機長が?」
「…機長ねえ…まあそうです。あの方に言わせるとこれは試合じゃなくてレクチャーだそうですから」
ふにゃふにゃのテレホンパンチがぽこん、と橋場のガードの上から入る。
睨み合っている両者。
「う…うわああああっ!」
苦しみ始める飛田。
「掛かったか」
「…これは…カウンター気味に発動する能力…ということか?」
「どうやらそうらしい。あんたの攻撃はブロックしたことで、こっちが一方的に触ったのと変わらなくなってるってわけだ」
「キミも…特殊系…と言う訳か…」
「そんな上等なもんじゃねえよ。基本的には無意識で発動することが多いし、狙って出せないことばかり。たまに奇跡をくれる奥の手みたいなもんだ」
飛田の動きが止まった。
「…と言う風に動揺するとでも思ったかね」
橋場の目が見開かれる。
「狙いは悪くないし、いい素質だ。だが、ベテランである私には通用しない」
橋場の背筋を冷たい物が流れ落ちる。
「そもそも君たちはこの能力の使い方を分かっていない」
「…そうでもないぞ」
「一般人相手にだろ?私も先輩パイロットをケンカの果てに客室乗務員にしちまった日には肝を冷やしたよ。そうじゃなくてメタモルファイター同士の戦いにおけるメタモル能力の運用の仕方って話だ」
「…よく意味が分からん」
「キミのカウンター気味に発動体質も使いようによってはこの上ない武器となる。今のままでは磨かれていないダイヤの原石以下だ」
「お前は使いこなせてるってのかよ?」
「ああそうだ。これくらいにはね」
「何?」
次の瞬間だった。
「うわあああああっ!」
突如乳首に刺激を感じた橋場は、そのままなす術もなく胸を盛り上がらせられ、乳房を形成させられた。
「馬鹿な…そんな…あああああっ!」
更に追撃が来た。
アンダーバストを締め付ける刺激…大きくて重いそれを吊り下げる負担からか肩に食い込むヒモ…ブラジャーだった。
「これが本当の『ブラ男』ってね」
「あ…あああ…」
自らに出現してしまった大き目のバストを見下ろす橋場。
これまでと違うのは、身体の他の部分は男のままなのに、胸だけが女になっており、あまつさえブラジャーまで装着させられていることだった。
「では約束だ。今度は私がパンチを受けさせてもらう」
(続く)